何とも言えない気持ちを抱えたまま、私は放課後を迎えていた。
今日は圭子と一緒に帰れる日だ、6時間目の授業を終えて、私はクラスの中を見回した。
途中で精市と目が合って、手を振り合う。
なんとなく、いつもの笑顔を少し怖い気がするのは気のせいだ。
精市は2度ほど手をひらひらと往復させて、そのまま教室を出て行った。
「りん、一緒に帰ろうー」
「うん、あ、ねぇ寄り道してかない?」
「いいよいいよ、どこ行く?」
そこまでは考えてなかった。
ゆっくり話せればどこでも良いんだけど。
「えーっと、スタバで」
「オッケー!」
私は鞄を取って、席を立った。
学校から徒歩10分ぐらいの場所にスタバがある、制服のままで行くのは少し抵抗があるが1人じゃないぶん気楽だ。
圭子はというと、隣でなんだか私以上にソワソワとした視線を送ってくる。
きっと昼休みの話を気にしているんだと思うけど、気にしないように違う話題をふった。
そこの話は、スタバに着いてからゆっくり話したい。
圭子の部活の話をしているうちに、私達はスターバックスについた。
冷たいフロート状のコーヒーを二つ注文し、2階の席を目指して階段をあがっていく。
席を見つけ、腰をかけた時にとうとう圭子がこらえきれないように聞いた。
「ねぇ、昼の呼び出しどうだったの?もう教えてくれても良いでしょ?」
「あー、不幸のお呼び出しじゃなかったよ」
「聞いた聞いた!男バスの先輩から告られたんでしょ?」
「うん、断ったけど」
「そうなの!?なんか勿体無い・・・なんで?」
「うー、えー、あー、あのね」
「うん、なになに?」
言いにくい、なんて言えば良いんだろうか、うーん、自分でもハッキリしないよなぁ。
思わず目の前のコーヒーをグルグル意味もなくかき混ぜながら言う。
「気になる、人が、気になっちゃって」
「え!だれだれ?幸村くん!?」
「いやいやいや、精市じゃない!断じて違う!」
「気になるんだけど・・・その前に幸村くんを断じて違うって言える女子もあんまり居ないよ、多分」
「そうかなぁ」
「そうだよ、で、誰なの?言ってみ!」
目をキラキラさせた圭子に押されつつ、小さな声で呟いた。
「・・・に、におーくんって人」
「仁王くん!?」
「こ、声が大きいよ!」
「あ、ごめん」
「い、いいけど」
ああ、言ってしまった。
口に出すとなんだか余計混乱した気がする。
今まで、確かに顔が良いのは周りに居たけど、それだけじゃない。
なんだか変だ、どうしたらいいのか、全然分からないし。
でも、なんか、もっと彼の事が知りたい。
「知ってる?におーくんって」
「もちろん知ってるよ!当たり前じゃん、仁王くんって色んな意味で目立つし」
「そ、そっか」
「なになに、りん、仁王くんに恋でもしちゃったの?」
それを聞いた瞬間、私はまるで誰かに心臓を掴まれたんじゃないかってくらい驚いた。
え、なに、恋って言った?
恋こいこい恋
頭の中で恋という言葉がグルグルまわってる。
確かに、高校生にもなるんだから、恋の一つぐらいはしたいと思ってた。
え、でも、これが?
「りん、固まりすぎ!おーい」
「こい・・・?」
「恋じゃない、の?」
おそるおそる聞かれて、私は同じように、おそるおそる返した。
「恋、したことなくて、恋なのか分からない・・・」
「え」
「恋って、なに?」
なんとなく自分の顔がひきつってるのを感じながら、私は圭子に言った。
すると圭子のさっきまでのソワソワした雰囲気が急に溜息混じりの暗いものになる。
無言でコーヒーをすすられているのが、気まずい。
「なんも言えねぇ」
「それって水泳のキタジマコウスケ?」
「うん」
ずずず
コーヒーをすする音だけが私達の間で流れていく。
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