「いいけど、でも、早くお弁当片付けなきゃ次に間に合わなくなるよ」


俺はそう言って、いつものように笑った。

内心はというと、なんとなく教えたくなかったっていうのが本音だけど。


でもやっぱり、後で教えちゃうのは、俺の良い所。

俺はそう思ってるんだけど、他の人がどう思ってるかなんて、特に意味はないだろ?


りんは最後まで残っていたミニトマトを口の中にいれながら、弁当箱を片付けはじめた。


「それもそうだね、急がなきゃ」

「また時間ある時に、教えてあげるよ」

「いや、別にそんなに気にしてる訳でもないから良いよ」

「ふふ、そうなの?そうは、見えないけど」

「そうかなぁ・・・よし、終わり」



小さな手提げの袋に、お弁当箱や箸をしまいこむ。

気にしてない、そうは言ってたけど、俺にはそう見えないな。


この前、仁王の話をした時には特に聞かなかったくせに。

偶然聞きたくなっただけかもしれないけど、飴をあげた以外にも何かあったのだろうか。



「う、やっぱりゆっくり食べないとなぁ、片腹いたい」

「告白なんかされに行くからだろ?」

「・・・精市は手紙とかもらったら、行かないの?」

「行くよ、せめてもの誠意を見せなきゃ、俺の人格が疑われるだろ。当たり前じゃん」

「なんか、腑に落ちない・・・」



難しい顔をして、俺を見るりんは中々見物だった。





今年の春に俺は高等部に入った、もちろん立海大付属だ。

どうせ、テニス部の連中だって皆同じ進路だし、大体の生徒はそのまま進学する。

特に代わり映えしない生活だと思っていたが、俺のクラスは1人だけど外部生が居て、それにクラスメイトも大きく変わっていた。

もちろん何人かは、また同じクラスになったけど。

中等部からの持ち上がりなだけあって、なんとなく顔見知りが多かった中、俺はなんとなく外部生の女の子に目を向けていた気がする。


クラスの誰とも話さない、自分から話かけにも行かない、なんだか近寄りがたい子に見えた。

皆が新しいクラスに慣れ始めた頃でさえ、彼女は一匹オオカミのようだ。

別に、転校して来たからといって、新しい友達とか作らないような子なのかもしれない。


俺は俺で彼女に特に話しかける訳でもなく、ただ遠目に見ていただけだったから、彼女のその時の気持ちは知らないけど。


日直がたまたま一緒になった日、いつもつまらなさそうに参加しているはずの授業を彼女は受けていなかった。

いや、1時間目には確かに居たはず、休んだ人は居なかった。


もしかしたら具合が悪くなって帰ってしまったのかもしれない。

俺はなんとなく、同じ日直として話しかけるチャンスだと思っていたので少し残念な気持ちになった。

号令も、日直は俺しか居ないし、俺がやるしかない。

でも、具合が悪いならしょうがない、居ないものはしょうがない。



そう思いながら、淡々と号令をこなす。

昼休みになった時、まさか別段何でも無かったように教室の中に入って来た彼女を見て、多少いらついたのは言うまでもないけどね。

具合が悪いならしょうがない、そう思ってた俺の気持ちを返せ。

何、普通に弁当喰おうとしてんだ、サボりなのか、そうなのか。


そんな事を思いながら、俺は思わず声をかけていた。



初めて話したけど、別に悪い子ではないみたいだし、むしろ好感がもてる感じさえした。

なんで、クラスの子達と仲良くしないのが不思議なぐらいで。


ほぼ一方的に声をかけて、ほぼ一方的にご飯を一緒に食べた。

まぁ、まさか泣くとは思ってなかったけど。



彼女がぼろぼろ泣いてるのを見て、彼女は一匹オオカミな訳では無かった事に気づく。

クラスに、立海に、上手に馴染めなかっただけの話だという事。

俺には平気な顔をしてるように見えたけど、でも本当は平気に見えるよう色々彼女なりに頑張ったんだろう。


泣いてしまった彼女は、なかなか、やっぱり見物だった。

ちょっと、そこまで泣くと、俺も笑っちゃうよね、まったく俺ったら素直な性格。

別にからかってる訳じゃないんだけど。


その日を境に、昼ご飯をりんと一緒に食べ始める。



ブン太や赤也が俺に声をかけられると、たまに引きつった笑顔を見せるんだけど、彼女もそうだった。

なんだか同世代の立海の女の子にそういう態度をとられるのも悪くない。

なんか直感で、仲間になれそうだとも思う。


その直感は正しくて、彼女は俺を「精市」って呼び始めた、なんだかくすぐったい感じがしたけど、それはそれで嬉しかった。

確かに俺は立海で有名な自信もあるし、テニスでも有名な自信があるから。

なんとなく「幸村」と呼ばれるのが多かったり、なかなか同世代の友達からは名前で呼ばれないし。

玄一郎や、蓮二は別だけど。



「俺の目に、くるいはないな、やっぱり」

「え?」

「ううん、なんでもないよ、仁王の事は明日ね」

「だーかーら、良いってば!」

「ふふふ、遠慮しないで良いよ」

「うー、聞く人間違えたなぁ・・・」



なんだか複雑そうな顔をされた。

明日りんから聞く前に、仁王本人から今日の事について少し聞いておこうかな。


でも、仁王、よく女の子に話しかけたな、とふと思う。

あいつ、面倒な事イコール女の子の事っていう公式が成り立ってるのに。



あれ、もしかして


なんか楽しそうな事になってきたんじゃないかな、ふふふ

top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -