自分の下駄箱を開けてみると、そこには薄い青色の封筒が入っていた。
それを手に取って、一応宛名を確認すると「暁さんへ」と書いてあったので、間違って入れてしまっている可能性はかなり減った。
しかし、送り主の名前は書かれてない。
もしかして、と頭をよぎったのは告白だった。
違うかもしれないけど、先日侑士が懇々と告白された話をしていたから、頭がそれに引っ張られている気がしてならない。
置いておくのも、すぐ見るのも躊躇われる。と、なれば、教室まで持って行くんだけど。
手紙をお弁当の袋の中にしまって、上履きを取り出して教室まで向かう。
教室に着いて、皆に挨拶をしながら自分の席へ進み、机の横に鞄をかける。
とりあえず、手紙、読んでみようかな。
壁にかかっている時計を見れば、いつも通り始業の20分前。
手紙を取り出して封を開ける、中には便箋が1枚きれいに三つ折りになって入っていた。
紙を開き、文を確認すると、「今日の昼休み、屋上で待ってます」という文字が紙の真ん中に一行書いてあるだけだった。
もう一度、封筒を確認してみるが、やっぱり送り主は誰だか分からない。
するといつの間にか隣の席の北原くんが、がっつり手紙を覗き込んでいる事に気付いた。
「りんちゃん、これは、まさか・・・」
「北原くん、勝手に覗きこむのはどうかと思う!」
「ゆ、ゆきむらー!!!りんちゃんが!ラブレターもらってるよー!!!」
「わあああ!なんで大きな声出すの!?」
「ゆきむらー!!早く来ーい!!」
「北原くん!!」
北原くんが急に大声を出すもんだから、クラスの人たちが私の机の周りに集まってきた。
私は慌てて手紙を机の中に隠す、まだラブレターと決まった訳じゃないのに!
確かに侑士のせいでラブレターかもとか思ったけど。
冷静に考えたら、そう、あれだ。
氷帝で伊達に侑士と仲良くやっていた訳じゃない。
ラブレターよりも不幸の手紙の可能性の方が高いのに!
「りん、なになに?ラブレターもらったの?」
「圭子まで!違うと思うんだよね、多分」
「な!俺は見たよ!昼に屋上に来て下さいって書いてあったじゃん!」
「北原くん、本当に黙って!」
「・・・なんかりんちゃん、いつもよりクール!ひゅーひゅー!」
私はため息をひとつして、周りに集まった人達に向かって言い放った。
「好きとかそういうの書いてなかったし、相手の名前も無いし、単にウザイからボコすって感じの呼び出しかもしれないじゃん」
「わー、りん、ついにこの日が・・・」
「圭子、もしかしたら、もしかするよ」
「そっか、そっち!?ごめん、りんちゃん、その可能性は、俺も否定できないもんな」
「北原くんが、無駄に大きな声出すからビックリしたよ・・・」
なんとなく、周囲に集まった人から同情のまなざしが届く。
そう、きっとこれは告白だなんて甘いものじゃなくて、どうせ単なる嫌がらせの一環。
もちろん、理由は決まっている。
「なんだか騒がしいね、皆でりんを囲んで何してるの?」
「ゆ、幸村!」
時計を見れば始業開始まで後5分。
彼が朝練を終えて、教室に現れる時間だ。
モーゼの海割りの如く現れた精市に、なんて言おうか頭の中でフル回転した結果。
「おはよう、精市」
とか普通の言葉が出た。
なんとなくだけど、他のクラスメイトは勝手に慌てている気がする。
いや、私も多少は焦っているのだけど。
もし、呼び出される原因が私にあるとすれば、間違いなく幸村精市なのだ。
圭子から聞いた話や、侑士から聞いた話、それにクラスメイトから途切れない「付き合ってるの」という疑問。
他のクラスの知らない子にさえ聞かれるのだから、彼の地位は確固たるもので。
「おはよう、ねぇ、なんの騒ぎ?面白い事でもあったの?なんか雰囲気的に、俺が関係してる・・・のかな?」
「あ、うーん、どうだろ」
「曖昧だなぁ、もう授業始まっちゃうから後で聞かせてね、北原」
「俺!?」
「お前が一番、慌ててる顔してるからさ」
「・・・後でお話しさせて頂きます」
「いい返事だ」
結局、精市にうまい具合に場をまとめられた。
北原くんがそもそも勝手に人の手紙を覗き込んで大声を出さなければ、こんな事にはならなかったんだし。
なんか北原くんが隣で蛇に睨まれたカエル状態になってるけど、放っておこうと思う。
周囲に集まっていた人たちも自分の席に戻ったみたいだし。
私は机の中にしまった手紙を取り出して、元通り封筒の中にしまった。
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