ゴールデンウィークは忙しくて、どうもテニスばかりしていた。

最終日の1日、やっと休みになったと思えばりんは立海でできた友達と遊びに行くので会えないという。

なんや、そんなん断って俺と遊んだらええやん!!

そう言ってみたものの、先に約束した方と遊ぶのが筋だと逆に言われてしまい、その正論さに頭が下がる。

じゃあ、今週の金曜日部活終わったらすぐりんの家に行くと言えば、電話口で「じゃあご飯つくって待ってるね」と笑われた。



そこから約一週間、なんとなくで学校生活も部活も過ごした。

ただ、先週とは違って1日1回、決められたように毎日告白される。

そんな事ってあるんか?

皆、口裏とか合わせてんのちゃう?


先輩方から同級生、ギャルみたいな子から根暗そうな子、バラエティにとんだ告白だった。

中2の春から卒業まで、俺はりんと毎日ずっと一緒に居たから、りんが居なくなってこんなに俺って告白とかされるもんなんかと驚いた。

そして、何故だか告白の最後には「まだ暁さんの事が好きなの?」と聞かれる始末。


そもそも付き合ってないんやけど、そう思っても口には出さない。

ええやん、俺の切ない片思いみたいな感じ。この噂がまた広まってくれたら助かる。



そんな一週間を過ごして、部活が終わり、せかせかしながら着替えていると岳人にデートかと疑われ、「りんに会うんや」と返せば「本当に付き合ってねえの?」と更に疑われる。



りんと付き合いたいと思った時期だって、もちろんあった。

しかし相手にその気が無かったら、俺だってどうしようもないもんや。

好きな気持ちが溢れ出しそうになったりした中2の夏から秋頃までが懐かしい。

さり気なく手を繋いだりしてみたって、りんは「どうしたの?変な侑士、お腹でも痛いの?」とどこ吹く風だった。

負けずにギュっと抱きしめてみたって、「はいはい」とあしらわれるし、恋愛面での脈無しとはこういう事かと実感したぐらい。


そして、その時期をこえたらりんはいつの間にか俺の第二の家族になってただけ。

不安な事があればお互いに相談するし、別に連絡をずっと取り合わなくたって、信頼がある。


でも毎日教室で会えてた前と、学校で会えなくなってしまった今とは話が違う。

一緒に飯だって喰ってたのに、なのに他の友達と遊ぶ予定があるだなんて。

これじゃまるで寂しいんは俺だけみたいや。

まぁ確かに俺はテニスを優先しているんだから、何にも言えないが。



岳人の一言に「好きやねんけど、付き合うてくれんのや」と言って、俺は早々と部室を出た。

電車でいこうかとずっと思ってたけど、俺は部室から出てすぐに携帯でタクシーを呼ぶ。




そうだ、まるで、これじゃあ。

寂しいんは俺だけみたいや。





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マンションについて、エレベーターに乗り込む。

りんの部屋のドアをひねってみれば鍵が開いていた。

カチャリと控えめな音がして、そのまま俺は部屋の中に入って玄関に座り靴を脱ぐ。

この前来た時よりも、なんだか生活感が出た気がする。


見たことない、ヒールがついた靴があるからだろうか。

それとも、この部屋にただよう晩ご飯の匂いだろうか。


音に気付いたのか、奥からりんが玄関まで出て来た。



「あれ、侑士なんか早かったね!」

「早いやろ急いできたんや、ただいま」

「あはは急いだんだ、おかえり、お腹でもすいたの?」

「そやそや、めっちゃすいた」



さり気なく「ただいま」を言えば「おかえり」が返って来る。

そう、俺はこういうのが好きなんや。



「もう少しでご飯出来るよ、今日はピーマンの肉詰めにしてみました」

「ええやん、うまそうな匂いするなぁ」

「今日は泊まる?お風呂に入った?」

「今日は泊まらん、土曜日の練習めっちゃ朝早いんや」

「へー、まー、テニス部さんは大変で」

「風呂はシャワー浴びて来たで、臭くないと思う」

「じゃあ、荷物置いて、ご飯運ぶの手伝ってもらおう」

「ええよ」




きっとこんな会話が出来るのも、後少しなんだ。

氷帝では俺とずっと居たから、恋愛どころじゃなかっただろうし、男も寄ってこなかった。

でも高校生にでもなれば、恋の1つや2つあるだろう。

りんに恋をしてほしくない訳ではないのだが。

俺との友人関係は多少なりとも壊れるような気がする。



やっぱ寂しいんは俺だけか・・・



ご飯を茶碗に盛りつつ、なんだかネガティブな事ばかり考えている気がする。

きっと俺は今週に疲れたんや、後で聞いてもらおう。



「侑士ー、この前侑士が言ってた・・・なんだっけなー、真っ白いテニス部の人とマンションで会ったよ」

「仁王ん事言いたいんか?」



出来上がったばかりの肉詰めを箸でつつきながら、りんが喋りだす。

早速、男の話題か、なんとなくさっきの妄想も現実になりそうだ。



「そう!それだよ、におーくん!思い出したー、喋った事無い人の名前覚えるの苦手なんだよね」

「真っ白いテニス部って言われただけで分かった俺、めっちゃすごい」

「あ、確かに、さすがだね侑士」

「やろ?で、なんか話したん?」

「ううん、エレベーターで一緒になっただけだから、見ただけ」

「そうなんか」



肉詰め、美味しいやん、きっとりんの旦那さんになったら毎日楽しいだろうに。

目の前で美味しそうにモグモグ食べてくれるだけで和む。



「あ、そうだ!侑士って幸村精市って知ってる?」

「知ってるもなにも、逆にな、幸村ん事知らんテニス部なんて居らんと思うで」

「ええ!そんなにスゴイ人なの?」

「スゴイも何も、全国でも知られてる奴やで、ほんま」

「ええー・・・そうなんだ」


苦笑いが出ている、そもそも幸村の話題が出るなんて思ってもみなかった。

仁王はともかく、なぜ。


「で、幸村がどうしたん?」

「いや、クラスに馴染めなくて、日直が一緒だった男子の話は前にしたでしょ?」

「おん」

「その男子が幸村精市で、今いっしょにお昼食べてるんだよ」

「・・・な、なんなんそれ」

「いやー、まさか、精市がそんなスゴイって知らなくてね、仲良くなった後にテニス部だって聞いたんだよ」


モグモグ食べながら、あんまり興味なさそうに話す所を見たら、どうやら恋をしている訳では無さそうだ。

いや、まさか幸村だなんて、相手が悪いとしか言いようがない。

俺との関係なんてあっという間に無かった事にされそうだ。

でも、一応、気になる、聞いてみやんと。



「・・・幸村に恋したんか?」

「こい?」

「そや」


俺は至極真面目な顔をして聞いたぶん、りんの大爆笑がリビングに響く。

今日1でウケたな、いやいや、でもそこじゃない。

ひとしきり笑って、彼女は言う。


「学校の人からもね、やたら聞かれるから、まさか侑士にまで聞かれるだなんて思って無かったよ、あー面白かった!」

「なんか真剣に聞いた俺が阿呆みたいやん」

「確かにかっこ良いとは思うけど、ちょっと恋愛とかじゃないなー」

「ほな、良かった」


幸村なん、跡部より厄介なのと仲良うなったなぁ。

まぁ恋愛じゃないならええか・・・。

あ、俺のポジション消されたらどないしよ。


「モテる人ってどこの学校にも居るもんだね、跡部くん並にモテるの知ってたらもう少し警戒したよ」

「そういうもんか」

「そういうもん」

「モテるで思い出した、俺、今週毎日告白されたんやけど!」

「え、嘘でしょ」

「ホンマや!」



疑わしい目しよって、月曜日のギャルから今日の根暗まで全部こと細かに説明したる。

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