昼休みになり、俺はすぐに教室を出た。

まだ他のクラスは授業が終わってないのか、廊下にまだ人はあまり居ない。

さっさと教室を出た理由はクラスの女子に囲まれたくない一心と、ひと気のない場所でウィッグを被るために。

幸村のクラスに噂の子をコッソリ覗きに行こうと思ったのは良いが、俺の髪の毛の色だとコッソリ覗くのもちょっと目立つ。



ひと気のない社会科準備室に入り込み、用意しておいた黒髪のウィッグを被る。

ここは壁に鏡もついてるし、物置みたいになって物がゴチャゴチャ置いて あるおかげで死角も多いから変装するにはもってこい。

ずれないように、ウィッグをピンで固定すれば、あっという間に優等生風の外見が出来上がった。

ポッケにいれているコンシーラーで口元のほくろも消す。

よしよし、これでパっと見で俺だと分からんじゃろ。



準備室を出て、幸村のクラスに向かう。

歩き方は柳生の歩き方でいこう、そっちの方が今の格好には合っているはず。

噂の子と幸村が昼ご飯を一緒に食べているというのは周知の事実だ。

あとは教室のドアから覗き込まなきゃいけない席で食べてない事を願うのみ。




幸村の教室の廊下の窓側に寄りかかって、携帯を取り出し、適当にメール画面を開く。

よし、これで準備は整った、観察開始だ。


幸村のクラスのドアは閉まっていたため、簡単に覗き込んで終わりというのは出来なくなったが、誰かしら、昼休み中に廊下に出て来るだろう。



それにしても、興味を持ったものだと自分でも思う。


屋上で見つけたお化けちゃん。

幸村と噂になっている女の子。


2つを繋ぐものは、ビー玉のような飴玉だけなんだけど。

俺の予想が当たっていたか、確かめたい。


間違ってたら、それはそれでいい、噂の子の顔だけでも確認しとけば幸村との会話の種になる。



教室のドアが開くのを、待つばかりだ。

こういう時にかぎって、出入りが少ないと思うのは気のせいだろうか。

携帯を開いたまま10分ほど暇をつぶしていると、聞き慣れた声が聞こえた。

廊下にも人が居るため中々聞きづらかったが幸村の声だ。

それとほぼ同時に、待機していた側のドアが開いた。

おかげであんまり聞きたくない、幸村特有イライラしつつも明るい声がハッキリと耳に届く。



「ちょっと圭子に聞きたい事、あるんだけど、良い?」



幸村がイライラしてる時の声は、なんでこうも、寒気がするのだろうか。

でも、逆にチャンスだ。

幸村がこの声を出している時は、その半径10メートルに居る人は静かになって幸村の言葉に耳を傾ける事を俺は知っている。

無論、テニス部に限り、黙って聞いてしまう半径は倍の20メートルになるのだが。


俺はドアを大きく開いたまま、なんだか動けなくなっている男子生徒の側に野次馬として近づいた。

これで、バッチリこっそり覗ける。

固まってしまった男子生徒の視線を追えば、そこには幸村の後ろ頭があった。



「な、なに?」

「自分で言うのも多少は恥ずかしいんだけど、俺のファンクラブって今もあるの?」

「あ、あると思うけど、同学年じゃないよ、先輩達が作ったんだって」

「へぇ、誰から聞いたの?その話は」

「茶道部の、先輩から」

「ふーん」



わー怒っとる・・・ま、まぁ同学年じゃない分、タチは悪くない。

同学年の奴等が懲りずにまたファンクラブなんぞ作ったら今度こそ幸村は本気になるだろう。

中等部3年の時に幸村は自分のファンクラブらしき物をぶっ潰した訳だし。

同学年で、また目立って同じ事をする勇気がある奴が居るとも思えない。

ついでに俺のもぶっ潰してほしかったくらいだ。



それにしても、答えている女の子がなんだか可哀想じゃ。

蛇に睨まれたカエルみたいになっとる。



「精市」



すると幸村の目の前で弁当箱を持ったまま停止してた女の子が、ニコニコ笑ったまま考え深げに頷いている幸村に声をかけた。


あ、れ


なんか見た事、ある



「なに?りん、顔ひきつってるよ」

「う、わ、笑うか怒るかどっちかにしないと、私も圭子ちゃんも、クラスの皆も、なんとも言えない気持ちになるんだけど」

「え!ぜんぜん怒ってなんかないよ、あきれてるだけで」

「そうなの?全然それだけには見えないんだけど」



首をかしげたその子がきっと噂の子に違いない。

幸村を「精市」呼ばわりしてるのは参謀と真田ぐらいだ。


そしてマンションのエレベーターで会った、やたら挙動不審だった奴によく似ている。

それと、俺の予想通り、お化けちゃんにも似ている。

お化けちゃんに至っては、ほぼ髪の毛しか覚えていないけど。

彼女の髪の毛は黒々したツヤのある髪の毛に見える。


エレベーター乗っとる時に、どっかで見た事あるような気持ちになったのは、これか。





「そうそう、あきれてるだけ。あ、圭子ありがと、おかげで色々考えがまとまったよ」

「そ、そっか!じゃ、ご飯もどるねー」

「ごめんね、食べてる途中に呼びつけちゃって」

「いいよいいよ、全然」


はぁ、誰かがため息をついた所で周囲の時が動き出す。

俺も動きに合わせて、教室を覗き込むのをやめて、廊下を歩き出す。

ちょっと参謀の所まで行ってお化けちゃんの情報でも貰おう。

年は近そうだと思ったが、まさかエレベーターの子が同じ学年に居るっていうのは厄介だ。

住んでる場所とか言いふらされたらどうしよう、困った。


柳のクラスの入口を覗けば、読書にふけっている参謀が居た。

入口近くに居た冴えない男子に柳を教室の外まで呼び出してもらう。

おお、不審者を見る目じゃ、ウィッグをとってから聞けば良かった。


「何のようだ」

「プリ」

「・・・仁王か、どうした」


場所を変えよう、そう言って歩き出す参謀の横につく。


「聞きたい事があるんじゃよ」

「答えられる範囲で言ってみろ」

「幸村と噂になってる子の詳細教えてなり」

「暁りんか」

「暁・・・」


住んでる階も一緒だったはず、あの引越しソバはきっとあの子の家からの物だろう。

ソバの熨斗紙に書いてあった苗字とも一致しちょる。


「精市と純粋に仲良くしてるだけみたいだな、精市が嬉しそうに話していた」

「ほー」

「そう簡単に情報を流したら、俺が精市に睨まれる」



それもそうだ、俺も幸村に睨まれるなんてゴメンじゃ。

ただ、それとは、また別に、個人的な問題なのだ。




「じゃ、新しい情報やるなり、参謀の知らん事だったら本人のプロフィールぐらいは教えてくれんか?」

「何?・・・まぁ、良いだろう。言ってみろ」

「俺、その暁さんと同じマンションの同じ階に住んどるんじゃ」

「・・・」



スタスタと歩き続けていた参謀がピタリと止まった。

まぁ確かに人気のない場所じゃけぇ、ここなら止まって喋っても大丈夫だろう。



「多分、部屋は2つ隣、どうじゃ、知らんじゃろ」

「本当か?」

「参謀にも睨まれたくないじゃき、本当じゃよ」

「暁りん、氷帝からの外部生。クラスは幸村と一緒、部活はまだ入っていない、母子家庭だが金銭的には問題の無い家だ。成績もまぁ良い方だ、さすがは外部生だけあるといった所か。」

「氷帝・・・、じゃから忍足か」

「忍足?」

「ちょっと前に、マンションで会ったんじゃよ、氷帝の忍足」

「ほう、聞かせてみろ」

「詳しくは知らん、でもツレと会いに来たって言うて、俺の部屋と同じ階に降りてったんじゃ。今まで忍足なんて一回も見とらんのに、変じゃなーって」

「ふむ、跡部の事も知っていたらしいし、暁りんで一致しそうだな」



パズルが解けたみたいな快感は確かにあった。

でも、そんな事はさておき、あの子がどんな子だか、それが問題。



「つまり、暁がどんな子なのか知りたいのか」

「それじゃ!それ!」

「確かに同じ階に住んでいて、厄介な女だったら面倒だな」

「そうなんじゃよ!俺の生活を邪魔されたら敵わん」

「しかし、どんな性格の子かは、まだ収集不足だ」



大事な所で使えんのう


そう考えてたら、何故だか柳がコッチを見て開眼していた。

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