ゴールデンウィークが終わり、なんとなくだるい気持ちで学校に着いた。

別に学校が楽しくない訳ではない。

むしろ、入学当初の事を考えたら、楽しくてしょうがないんだけど。


行くまでが面倒というか、なんというか。

着いたら着いたで少しドキドキするんだけど、そこは難しい気持ち。


いつも通りに起きてお弁当を作って、朝ご飯を食べて、着替えたつもりだったけど。

教室に着いたのは1時間目の授業が始まる5分前だった。


いつもは20分前には教室に居るはずなのに、どこでどう10分をロスしたのか分からない。

少し長い休みはやっぱり生活リズムが狂うな、


「おはよう」と友達になったばかりの人達とすれ違い様に声を掛け合う。

なんとなく髪の毛の色が変わった人が沢山居る気がする。

さすがに真っ白い髪の毛の人は居なかったけど。

自分の机に着くまでもう何人かに挨拶をしていくと鞄から授業に使う教科書を取り出している精市が居た。


「あれ、精市がもう居る」


ギリギリまで朝練があるせいか、精市は授業の始まるギリギリの時間に教室に居る事が多い。

私が着いて、精市がもう教室の中に居るのはなんだか新鮮だった。


「りんがいつもより遅いんだよ、休みボケしてるんじゃない?」

「く・・・、なんか、おはよう」

「うん、おはよう」



笑いながら言う彼の少し刺がある台詞にはもう慣れた。



「ゴールデンウィークはどうだった?あ、また昼ご飯の時に聞くね、りんがいつもより遅かったからもう授業が始まっちゃうよ、早く用意しなくて良いの?」

「ま、またお昼の時に話すね」

「だからそう言っただろ?本当に休みボケしてきたみたいだね、ふふふ」



慣れた、はず。

でも確かに早く用意しなきゃ、先生がきてしまう。

言われたからでは無いけれど、いそいそと自分の席で数学の用意をしはじめる。


課題、ちゃんとやってきたつもりだけど、自信ないなぁ。




---





「俺はテニス三昧なゴールデンウィークを過ごしちゃったんだけど、りんは休みらしい休みを満喫したみたいだね」

「うん、食べて寝て、テレビ見て、たまーに遊んで、楽しかったよ」

「そっか、だからボケボケしてるのか」

「あはは、してるかなぁ」

「してるよ、なんかお弁当の中身もいつもより茶色いし」

「ばれた?」

「うん、茶色い」



やっぱり茶色いよな、今日のお弁当。

そう思いながら、箸で冷凍食品のメンチカツをつつく。

目の前の精市のお弁当は色とりどりなので、余計自分のお弁当が茶色く見えた。



「なんか喰う寝る以外は何にも無かったの?」

「うーん、氷帝の仲良かった友達も忙しそうだったし圭子ちゃんと買い物に行ったくらいかな」

「あれ、圭子と仲良いんだ?」



基本的に、彼はクラスの女の子を名前で呼び捨てしている。気がする。

それもごく自然に。

今初めて、彼から圭子ちゃんの名前を聞いた、中等部からの付き合いもあるから呼び捨てでもちろん良いのだろうけど。

そうだ、私も圭子って呼び捨てで呼んで良いか、後で聞こっと。



「仲良いと、良いんだけど。帰り道も大体一緒で圭子ちゃんが部活無い時に一緒に帰ったりするんだ」

「ふーん、何買いに行ったの?洋服?」

「そう、たまたまなんだけど、服の趣味がちょっと似ててね、すごい楽しかったよ!」



昨日の事だし、鮮明に買い物の事を思い出す。

侑士とも一緒に買い物に行くけど、やっぱり女の子同士で買い物をするのは楽しかった。


下着とかも一緒に見れるし、いや、侑士も我先にとランジェリーショップに入ってくけど。

それはなんとなくだけど、私が少し恥ずかしくなるから止めてほしい。


考えが無駄な所まで飛んでったので元に戻して行くと、マンションのエレベーターで会った真っ白な髪の人を思い出した。


氷帝の侑士が知ってるくらいなんだから、精市に聞いたら分かるかもしれない。



「ねぇ、そういえばテニス部に、髪の毛真っ白な人って居る?」

「髪の毛真っ白って・・・仁王の事?真っ白っていうか銀色っていうか、まぁ、白っていえば白か・・・」

「におー、うーん、そういえばそんな感じの名前だったかも・・・」

「俺がテニス部って事知らなかったくせに、何で仁王の事知ってるんだよ、喧嘩売ってんの?」

「売ってない売ってない!なんか氷帝で仲良かった友達がー、えーとどう説明していいのかな?」

「そこは俺に聞かれても」

「だよね・・・」



髪の毛白い人の事を説明する前に、侑士の事を説明しなきゃ、なんか面倒だけど。

喧嘩売ってない事を説明しなきゃ。



「氷帝で仲良かった奴がテニス部だったんだけどね、知ってるかな。一応レギュラーだったと思う、忍足侑士って眼鏡かけた関西人なんだけど」

「はぁ、意外と世間って狭いもんだね、知ってるよ。氷帝の天才って呼ばれてるんだっけ?忍足って向日とダブルス組んでた奴だよね、話した事くらいはあるよ」



どうやら、跡部くんといい、侑士の事も知り合いらしい。

それに岳人くんまで。

県が違うのに、テニスってそんなに知り合い出来るもんなのかな。



「・・・いや、天才かは知らないけど、多分それで、合ってると思う」

「うんうん、続けて続けて」

「引っ越しとか手伝ってもらったり、たまに家に来てご飯食べてったりするぐらいの仲なんだけど、この前ね忍足侑士がうちのマンションに来たときに、白い髪の人と会ったって言ってて。
その時は話半分に聞いてたから名前まで覚えてなかったんだけど、髪が白いっていうのは覚えてて、えーと、昨日マンションで多分その白い髪の人と鉢合わせて、そういえば立海のテニス部だって聞いた様な・・・気も、しないでもないなぁって」

「・・・もう少しまとめて、簡潔的に喋れないのかい?」

「ご、ごめん」



確かに、分かりにくい説明だったなとは思うけど。

私も、あんまり侑士が白い髪の人の事をなんて言ってたか覚えてないしなぁ。




「つまりは仁王と同じマンションに住んでるって事?」

「・・・おー!精市さすが!そういう事!別に知り合いって訳じゃないし、話した訳じゃないから知ってるっていうのも変な話なんだけど」

「仁王だって知ってて、知ってるって言った訳じゃないって事を言いたいの?」

「おおー!そうそう、それ!だから喧嘩売ってないって事もついでに付け足しといて」

「ああ、そこ?」

「そう、そこ」



におー、におー、におー。

におーくん、よし、覚えた。

今度、侑士に会った時に言っとこう、におーくんをマンションで見たよって。



「なんかスッキリした」

「俺は微妙にスッキリしないんだけど」

「そう?ねぇ精市は本当にテニスしかしてないの?ゴールデンウィークなのに」

「うん、そうだな・・・うーん、テニス以外の事でいつもと違う事したのは、同じ部活の奴とファミレスでご飯食べたくらいだな、あ、仁王も居たよ、確か」

「ふーん」

「え、それだけ?」

「ううん、なんか本当に好きなんだねテニス、圭子ちゃんから聞いたけど中等部の時から本当にスゴかったんでしょ、ファンクラブもあるんだって?」



そう言うと、ピタと精市の手の動きがとまった。

あれ?なんか変な事言ったかな?

動きがとまった精市をよそに白いご飯を口にいれる。

眉をひそめて何か考える精市は確かにカッコいい、この顔は特にモテそうだ。



「・・・まだあるの?ファンクラブだかなんだかって」

「さ、さぁー圭子ちゃんに聞いた事だしなぁ、私はちょっと分か」

「りんに分かる訳ないか。圭子ー、聞きたい事あるんだけど、ちょっと来てー」



あれ、私、まだ喋ってる途中だったんだけど。



精市は数人の女の子とご飯を食べていた圭子ちゃんに向かって声をかけた。

圭子ちゃんも、周りでご飯を食べていた女の子達も驚いた顔をしてコッチの方を見ている。

精市はいつものニコニコ顔で圭子ちゃんに向かってコッチコッチと手を振っているし、私、なんだか言っちゃいけない事を言った気持ちになった。

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