ゴールデンウィークも最終日、私は帰り道が一緒の圭子ちゃんと街に繰り出していた。
昼過ぎという事もあってか、人はやっぱり多い。
まずはどこにショッピングをしにいくか作戦をたてるためにスターバックスに入る。
まずはお互いの服の趣味を理解していかないと、歩き疲れてしまうという話になったのだ。
私服で会うのは今日が初めてだけど、私と圭子ちゃんの服装はなかなか近いものがあって、買い物をするショップも似ていたため、その話はあっけなく終了したんだけど。
まだまだコーヒーが残っていたので、学校の事を話していたら、いつの間にか話は精市と私についての話になっていた。
「りんちゃん、幸村くんと本当に付き合ってないの?」
「圭子ちゃん、もう色んな人に何回目だか分からないくらい聞かれたけど、本当に何にも無いよ、一緒にご飯食べてるだけで」
「だってすごい仲良しなんだもん、あの幸村くんと!」
「う、精市ってそんなにスゴイ人だったの?最近になってテニス部だって聞いたけど・・・」
「ええ!!?まぁ外部生だからしょうがないかー・・・、中等部の時とか幸村くん達の代は毎回全国大会で優勝しちゃったりしてたんだよ?」
「え、そんなすごかったんだ・・・」
「そうだよ!しかも幸村くんは部長だったし、ファンクラブだってあったんだよ!」
ショコラ味のコーヒーをすすりながら、目の前で興奮冷めやらぬ圭子ちゃんを見る。
氷帝では確かにテニス部ってスゴイ人気だった、まさか立海までテニスがスゴイなんて知らなかった。
そして、まさかのファンクラブ、氷帝だけだと思ってたけど、そうでも無いんだな。
やっぱり跡部くんと同じ様なポジションだし、最初から知ってたら名前で呼び捨てなんかしないし、恐れ多い。
でも、今更だしなぁ、もう呼び慣れてしまった。
「ファンクラブかぁ、確かにすごいモテそうだもんね」
「なんか、りんちゃんって呑気・・・幸村くん、きっと先輩からもスゴイ人気だよ」
「なんかそんな感じがしてきた、・・・ちょっと待って、ファンクラブって今もあるの?」
「そりゃあもちろん、今のテニス部の先輩達を押しのけてレギュラーになっちゃいそうなんだって、持ち上がり組のテニス部メンツ、余計ヒートアップしてるよ、多分」
「うわあ」
でも、まぁ、分からなくも無いんだけど、確かにカッコいいもんな。
母さんぐらいに「きゃーきゃー」ってしてるぐらいだったら良いんだけど。
武力行使された日にはたまったもんじゃない、気をつけなきゃ。
「過激な子も居るし、そういう子に目、つけられないと良いよね・・・」
「うん、そうだね・・・」
残ったコーヒーを全部すする、甘くて苦いショコラ味。
氷帝の時にだって、侑士ファンから上手に逃げ回って来たんだし、なんとかなるだろう。
恋愛の好きとは違う事を1から説明して、友達として好きなんだという事を分かってもらえるのかは分からないけど。
「この話、暗くなってきちゃうから辞めよっか、買い物しに行こう、気を取り直して」
「うん、そうしよう」
やめたやめた、まだ起こっても無い出来事を考えるだけ無駄だ。
今は楽しくショッピングしに来たんだ、楽しまなきゃ!
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「じゃ、りんちゃん、また明日ね」
「うん、今日はありがとう」
「ううん、こちらこそ!いっぱい買っちゃったし、楽しかった!」
「私も!また一緒に行こうね!」
「うん!じゃあ、明日学校で!」
「ばいばい」
買い物を終わらせて、夕ご飯を一緒にファミレスで食べて、もう時間は19時になっていた。
圭子ちゃんと別れて、だんだんと住み慣れて来た我が家へと向かう。
ようやくこの家へ向かう道にも愛着というものが湧いてきた気がする。
ショップ袋を沢山手に持っているせいか、気持ちはホクホクだ。
マンションの前につくと、見慣れない人と入り口で鉢合わせた。
その人もエレベーターに乗るらしく、全く同じ方向に進んで行く。
後ろをついていくって気まずいな。
真っ白な髪の毛の人がエレベーターの上ボタンを押せば、すぐにドアが開く。
同じエレベーターに乗って良いものか、少し迷ってたら「乗らんの?」と声をかけられたので「ありがとうございます」と言って結局同じエレベーターに乗ってしまった。
4階のボタンを押そうとしたら、もう既に4階のボタンは光っている。
どうやらこの白い髪の人は同じ階の住人らしい。
「何階?」
「あ、同じ階です」
ジャージ姿でコンビニの袋みたいなのを手にもって、なおかつ大きな荷物を背負った真っ白い髪の毛の人。
侑士もああいうバックを持っていたから、もしかしてあれはテニスバックかもしれない。
あれ?ちょっと記憶が曖昧だけど、なんか侑士の知り合いだかなんだかの髪の毛が白い人が同じマンションに住んでるって言ってたっけ。
髪の毛が真っ白な人なんて今まで見た事ないし、きっとこの人なんだろう。
確か、同じ立海生だって言ってた気もする。
急に気まずくなってきたぞ、まさか同じ階だなんて。
どこも止まらずにエレベーターは4階に到着した。
先に出ていいのかさえ分からず、ぐらぐら1人で揺れる、どうしよう。
「どうぞ」
「あ、すみません」
反射的にそう言って私はエレベーターを慌てて降りる。
真っ白な頭の彼もエレベーターを降りて、なんとなく気まずい空気。
でも、いちいち声をかけてくれるなんて、髪の毛や見た目と違って、案外この人は優しいのかもしれない。
そして、彼からしたら私は単なる不審者だろう。
どうしよう、同じ階なんだし、一応ご挨拶くらいはした方が良いのだろうか?
いや、した方が良いに違いない。
既に私より5メートルほど前に進んでいた彼に向かって声をかけようとしたが、なんて挨拶をしていいか迷ってるうちに彼は自分の家だろうドアを開けて消えていった。
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