「めっちゃ寒い、4月寒い」

「おめーが1番、着込んでんだろぃ」

「ブンちゃんみたく太っとらんもん」

「おめーが細すぎんだよ」




部活も終わり、帰宅中、やはり4月は寒い事に気付く。

汗が冷えてるのも原因のひとつだけど、それにしても寒い。

マフラーあっても良いぐらいじゃ。

それに比べて、横を歩いているブンちゃんの寒くなさそうな顔が少しイラつく。

体脂肪、何パーあるんじゃ、でぶ。



あ、枕用カーディガンがあった、着よう。

立ち止まりもせずに鞄の中からカーディガンを取り出す。

隣ではブンちゃんが「カーディガン何枚持ってんだよ」と笑っていた、このカーディガンは枕用なので滅多に着ない。

なのに枕以外での使用は本日2回目。

ブンちゃんに鞄を押し付けて、ブレザーを脱いで、カーディガン、オン、カーディガン。

更にブレザーを着込む。

ようやく、暖かくなった気がした。これで風邪はひかないだろう。

ありがとう、と言って鞄を受け取る、優しいデブじゃ。


そういえば・・・とポケットに手をいれると昼間つっこんどいたままの飴があった。

自分で食べるのも良いが、ブンちゃんにあげた方が飴も喜ぶだろうと思い、彼に聞く。



「ブンちゃん、飴いらんか?」

「・・・」

「なんじゃ?その目は」



飴玉をつまんで彼に渡そうとする、が、するどく睨まれた。

なんで?俺がなんかしたんか?ちょ、怖いんじゃけど。

飴じゃよ?ブンちゃん、飴すきじゃったろ?なして?

俺、こういう雰囲気、苦手なんじゃけど。



「どうせ道端で拾ったのを俺に喰わせてみようって魂胆なんだろぃ!俺はもう騙されねーぞ!」

「な、なんじゃ、急に大っきい声だして」

「どうせ甘いもんだったら何でも喰うとでも思ってんだろ!」

「ま、まぁ、でも好きじゃろ?飴玉」

「そんな事ねーんだからな!ほいほい貰ったりしねーんだからな!」



そう強く言い切ると、プイとそっぽを向いてしまった。

なんだなんだ?ブンちゃんに何があったんだ?急に甘いものを憎みだすだなんて。

まぁ、どうせクラスの奴らにでもからかわれたんだろう。


俺が、拾った飴を人にあげる訳ない、事もないか・・・。

とりあえず、ブンちゃんは飴玉要らないらしい、じゃー自分で喰お。

飴の袋を破り、赤色の大きな飴を口の中にいれる、いちご味のようだ。

「え」、隣から小さな声が聞こえた。いちいちウルサイ奴じゃ。



「・・・拾った飴じゃねーの?」

「貰ったんじゃ」

「くそーーーー!!」

「なにがあったか知らんが、大変なんじゃな」

「うるせー!」



飴ひとつでここまで感情的になれるのは果たして良い事なのか悪い事なのか、俺には分からん。

まぁ見てる分には面白いから放っておこう。



「てか、お前が飴もらうなんて珍しくね?いっつも何か入ってんじゃねーかとかビビって捨ててんじゃん」

「これは俺にくれたんじゃが、俺とは知らんでくれたんじゃ、だから平気」

「なんだそれ?難しいな」



飴玉を口の中で転がしながら先に歩いて行く。

俺の住んでるマンションの前までは後少しだ。

ブンちゃんは難しい顔をしてたけど、すぐに気にならなくなったようで、じゃーまた明日なー、と後ろ手を振って帰っていった。




マンションの入口をくぐり抜け、エレベーターの前にどこかで見た顔に会った。

氷帝の制服を着ていたおかげか、名前まで思い出してしまう。

忍足、なんでこんな所に居るんじゃ?

見ていて数秒、相手もこちらに気付いたようで、貼り付けたような笑顔で話しかけてきた。



「仁王やんか」

「プリ」



面倒くさそうな奴じゃなー、そうは思うものの、エレベーターはひとつしか無い。



「変わった挨拶やなー、ええ所に住んでるやん」

「東京からわざわざ神奈川に何のようじゃ」

「ツレがここに住んどってな、遊びきたんや」

「女じゃろ」

「ご想像にお任せしとくわ」



高い音が短く鳴り、エレベーターの扉がひらく。

忍足は当たり前のように中に入っていく、なんか、こいつ、慣れとるな。

なんとなく一緒に乗り込みたくない、中に入ろうか入らないでおこうか迷っていると「乗らんの?」と声をかけられ反射でつい中に入ってしまった。


階数まで一緒だったら嫌じゃ、なんとなく。

詐欺師たるもの、個人情報には気をつけておきたい、いや、単に忍足に知られるんが嫌なだけじゃ。



忍足が4階に止まるボタンを押したのを確認してから、自分で最上階の7階のボタンを押す。



「最上階に住んでんのか、自分」

「プリッ」

「変わった返事やなぁ」



なんじゃ、向かう階数まで同じなんて、縁起が悪すぎるじゃろ。

同じ階に住んでる奴が忍足と知り合いなんか、そういえば最近引っ越してきた家があったが、そこに来とるんか?

いや、憶測じゃな。

引っ越しソバが郵便受けの中に入っていたはずだ、後で部屋番号と名前でも確認しておこう。


「ほな、またなー」そう言って忍足は4階で降りて行った、閉のボタンを連打する。

面倒じゃ、なんか面倒じゃ。

俺って他人からは、ああいう風に見えてると思うと余計嫌になる。



最上階について、そのままエレベーターに乗って4階まで戻ろうか少し迷ったけど、一応降りる事にした。

階段で下った方が時間も稼げるし、ちょうどいい。



今回はたまたま会っただけじゃ、うん、そうに違いない。

次はもう会わんはずじゃ。

てか氷帝の部活終わるの早くないか?氷帝からここまで結構なんだかんだで時間かかるじゃろ?




あー、もう、なんで俺がそんな事を考えなくちゃいけないんだ。

関係ない、関係ない。


今日の晩飯は、郵便受けに入ったままになってる引っ越しソバに決まりじゃ

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