七夕


2014/07/07 01:53

空には今日も梅雨らしい重たい灰色の雲が立ち込めている。自分の部屋の窓からそんな当たり前の光景を眺めながら、ふと昨夜眠る前に弟たちがはしゃぎながら話していたことを思い出した。
「あしたはたなばたなんだよー!」
七月七日。織姫と彦星が一年に一度、逢瀬を許される日だ。まだ幼い弟達は純粋にその日を心待ちにしているようだった。
「晴れるといいな」
そう言って弟の頭を撫でながら俺はなんとなくこう思っていた。きっとまた、二人は会えないんだろうな、って。織姫と彦星の逢瀬は雨が降れば叶わない。それが梅雨も真っ只中のこの時期に当たるなんてロマンどころか悲恋だ。

制服に腕を通して身支度を整えていると、机に無造作に置いたままだった携帯の画面が光った。朝から珍しいな、と思いながらも画面を覗く。そこには見慣れた名前とありふれた挨拶が並んでいた。
『仁王雅治/おはよーさん』
あまりに普通で何の変哲もない仁王からのメールにありふれた挨拶を返す。
『おはよ』
それだけのことに少しだけ心が穏やかになって気分が軽くなる。我ながら単純な奴だと思う。そして七夕なんてどうでも良いくせに、内心では織姫と彦星の境遇を自分自身に重ね合わせていたんだと気付いた。
大体俺が一年に一度しか好きな奴に会いに行かないなんて、そんな訳がない。掟だか何だか知らないがそんなのに大人しく従ってたまるか。悲劇の主人公なんて御免だっての。
だからそうだな。もし今日織姫と彦星が無事に逢瀬を果たせたなら、俺自身も一歩踏み出してみてもいいかもしれない。なんて願い事を胸に秘めて玄関のドアを飛び出した。











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