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まだレッドドラゴンでスパイクが、潰れかけのジャズバーであたしが歌をうたっていたころのこと。ヴィシャスがきれいな女の人を連れてきた時のこと。何にする、と訊いたら、プレーリー・オイスター以外でお任せ、と答えてからそれしか飲まなかったこと。閉店の三十分前に来て『Green Bird』を頼んだあなたの定位置のこと。ステージから目が合うとウインクを送るあなたの左目の過去。
「今夜、この町を出るよ」
ヴィシャスが、わざわざあなたとジュリアの一夜を教えに来てくれた。あの時選んだのはこのバーじゃなくて、ジュリアのところだったのに、どうして別れのあいさつだけは残していったりしたんだろう。あたしは歌もうたえるし、お酒もつくれるし、掃除はきらいだけど、足手まといにはならない。いまも時々あなたの近況を知らせに来るお客さんが、伝言だと言って「あいつは元気にしてるかな。何度か手紙も書いたのに返事も寄越さねぇ」
ビバップ号で宇宙を駆け巡っても昔の夢に溺れているままのあなた。ばかね。そんなものここには届いてやしない。あたしはさみしくないもの。