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 友人であるリリーはホグワーツに入学してからつい最近まであの悪名高き悪戯仕掛人であるジェームズ・ポッターの事を親の敵であるかの様に酷く毛嫌いしていた。
 そしてそんなジェームズと何時も一緒にいる、多分一番仲の良いであろうシリウスの事も、リリーは彼女の友人であるセブルス・スネイプの事を虐めていたから余り好んではいなかった様だが、私はジェームズとは長い学生生活の間でも友人の知り合い程度の関係でいた為に意外と接点が無く、好きか嫌いかまで親しくはなかったがシリウスとは、それなりに仲が良かった。
「今度のホグズミードお前は行くか?」
「迷ってる。シリウスは?」
「お前が行かないなら行かない」
 ホグワーツ在学中の少ないイベントのひとつである"ホグズミード村に行く"と言うのは恋人や友達との思い出作りのひとつであり、恋人の沢山いるシリウスなら絶対に行くと思っていたから、まさかのシリウスの言葉に私は驚いて思わずシリウスの事を凝視した。
「彼女と行かないの?」
「いねぇよ」
 珍しい。
 そう思いながら南瓜ジュースを飲む。
「お前はなんで行かないんだ?」
「レポート終わらせようと思って。それに……」
 視線をシリウスからその後ろにいるリリーとジェームズの二人に移せばシリウスは納得した様に小さく「あぁ……」と呟いた。
 前みたいに、リリーと一緒に行けるのなら私は今回も行っただろう。
 しかし今回のリリーは雪の様に白いを頬を林檎の様に赤らめて「ジェームズと行く」と私に告げたのでフラれてしまった私はリリーがいないとつまらないし、ホグズミードにそこまで思い入れもなかったので行く気はなかった。
「私に気を使ってる?」
 だから、もしシリウスが私に気を使っているなら同情されたくはなかったから、恋人ではなくても仲の良い友人達と行って土産話でもしてくれた方がずっといい。
「まさか、単純にお前がいないとつまらないからだ」
 しかし私は全くの予想外だったシリウスの言葉に驚き、ゴブレットを落としそうになったがシリウスはそんな私の事など知らず、豪快にチキンを食べる。
 外見も家柄も成績も、まるで御伽噺の王子様の様になにもかもがパーフェクトなシリウスは、寮を問わず女生徒にモテるのだと最初はそう思っていた。
 でも実際は多分こういう些細な、自分だけを思ってくれているのだろうと勘違いしたくなる事を平気で言うから、シリウスはプレイボーイと呼ばれるまでにモテるのだろう。
「それに、人がいないと落ち着けるだろ?」
「……良からぬ事でもする気?」
「しねぇよ。それに、ジェームズがいない時にやってもつまらないだろ?」
「それもそうだ」
 シリウスは多分、ジェームズがいなければこんなふうに笑ったりはしないと思う。
(嫉妬するなんてなぁ……)
 頬杖を尽きながら相変わらずチキンを食べているシリウスを眺める。
 美人が怒ると怖いと言うのはよく聞く話で、まさに顔が整った人は、どんな表情をしても様になるし、なにより笑顔は惚れ惚れとするモノだと思ってる。
 しかし、何時の頃からか、私はシリウスがジェームズの事で笑顔になると、なんだか心の奥にもやもやとした、嫉妬に似ている不透明な感情を抱く様になっていた。
 もしかしたら、自分では絶対こんなふうにシリウスを笑顔には出来ないから、そんな事をいともたやすくやってしまうジェームズに嫉妬しているのかもしれない。
 良くも悪くも、ジェームズの周りには人が集まる。
まるで太陽の様な人物で、何時もみんなの中心にいるのが当たり前になっていた。
 だから、そんな太陽に嫉妬するなんて、おこがましいにも程があるって事は理解しているつもりだった。
(もしかしたら、羨ましいのかもしれない)
 みんなに必要とされているジェームズが。
 特に、今ではジェームズの意中の人物であったリリーのハートを見事掴み取り、更に幸せそうなジェームズがとても羨ましかったが、幾ら羨ましがっても、あそこにいるのは私ではなくジェイムズでなければいけない。
 そう考えると自然と溜め息が出た。
「なんだい君達!朝から暗いよ?」
「ウルセェよ、ジェームズ」
「眼鏡粉々にされたくなければ早くリリーの元へ戻りなさい」
「酷い!!本当君達こういう時はビックリするくらいに息ピッタリなんだから!!」
 シリウスもリリーも笑顔に出来るジェームズの暖かさが今は少しばかり眩しかった。
「懲りないよな、ジェームズも」
 早々にリリーの元に戻り、慰めてもらっているジェームズを見てシリウスは小さく笑った。
「そうだね」
 こんな思い、気が付かなきゃ良かったと思いつつ、ホグズミードに行く日、私はリリーをちゃんと送り出せるかなと杞憂していたが、ホグズミードに行く当日、私は楽しそうに寮から出て行ったリリーを送り出す事が出来た。
(楽しんでね)
 いってらっしゃいと送り出す事は出来た。
 でも、どうしても言えなかったその一言を心の中で呟いた私は先程のリリーの様子を思い出しながら溜め息を吐き、何と無く部屋に戻る気にもなれずに談話室のソファに座った。
 恋する乙女と言うのは可愛いモノで、あんなに毛嫌いしていたジェームズと仲睦まじそうに出掛けて行ったリリーはとても綺麗だった。
 これから、あの笑顔をジェームズが独り占めするのかと思うと少し妬いてしまうが、リリーが笑顔なら私はそれで良い。だって私には誰かを笑顔にする事なんて出来ないから。
 もう一度溜め息を吐き、此処でグダグダと考えていてもしかたないと思い、部屋に戻ろうとしたが、何時の間にかシリウスが座っていた事に少しばかり驚いたが、無視する理由もなかった為、気怠けになってしまったがシリウスに声を掛けた。
「結局行かなかったんだ」
「まぁな」
 隣に座るシリウスを何と無く見ていたら、この前のシリウスとの会話を思い出した。
(そう言えばシリウスに恋人がいないのも珍しい)
 愛だの恋だのと不特定多数の人間から愛されて忙しいシリウスだが、肝心のシリウスは恋愛で心が満たされるのかと、パチパチと薪の鳴る音を聞きながらなにをする訳でもなくボーッとそんな事を考えていた。
「シリウスは、恋愛で心満たされた?」
「結局無かったな」
 結局、と言う言葉の真意は分からなかったがシリウスにとって恋愛は暇潰し程度にしかならなかったのだろう。
 もしかしたら、今シリウスに恋人がいないのも恋愛では心を満たされなかったからなのかもしれない。
 歴代のシリウスの恋人は皆、容姿や家柄など、どこを見ても欠点と言えるモノが無い、シリウスが御伽噺に出て来る王子様なら、彼女達は御伽噺に出て来るお姫様と言った人達ばかりだったと言うのに、そんな人達にでもシリウスの心は満たされなかったのだから、多分私がシリウスの恋人になってもシリウスの心は満たされる事はないだろう。
(そもそも、シリウスと付き合えるなんておこがましい、か……)
 きっかけは分からない。
 でも、気が付いたらシリウスの事が好きだった。
周りが引く様な本気の喧嘩も、悪戯が見付かってフィルチから逃げたり、どうでもいい話をしたり……ホグワーツに入学してから築き上げてきた悪友という言葉がピッタリな私達の関係は、とても心地が良くて、リリーをジェームズ取られてしまった事もあって、私は尚の事シリウスとの今の関係を壊したくはなかった。
「俺さ、お前の事良い友達だと思ってたんだ」
 ソファに座り、長い足を延ばし踏ん反り返っていたシリウスは体制を代えて深く座り、私にとっては嬉しい言葉でもあり、同時に失恋決定でしかない言葉を告げた。
 それからシリウスは今まで知らなかった真面目ちゃんだと思っていたと言う私の第一印象を告げ、今までの色々な思い出を語った。
 それはとても懐かしいモノで、最初は失恋した事で泣きそうになったがシリウスの話を聞いているうちに色々と思い出して、笑いながらあんな事があった、こんな事があった、と話をした。
「初めて会った時からお前は俺の事をシリウスとして見てくれた」
 シリウスは時々とても大人っぽい表情をする。
「……? だってシリウスはシリウスでしょ?」
 それは、何時もの自信満々なシリウスからは想像出来ない程に酷く儚くて……でも、とても綺麗だ。
「家の事を抜きにって事だ」
 あぁ、そう言う事か。
 自分でも嫌と言う程自覚しているが、私は色々な事に疎く、最近の事だとリリーがあんなにも毛嫌いしていたジェームズの事を好きだと聞いて酷く驚いた。
 もし私がもっと周りに気を使える、気配りの出来る人間ならリリーの事にももっと早く気が付けたかもしれないし、シリウスに対しても、なにか気の利いた事を言えたかもしれない。
「俺はお前の事が羨ましかった」
 自分の無能さに自己嫌悪と仲良くお友達になっていた私は、シリウスの言葉に酷く驚いた。
「シリウスが?私を?」
 嘲笑される要素はあっても羨ましがられる要素なんて無いと思っていたから、私なんかと違ってみんなに必要とされているシリウスにそんな事を言われるなんて、誰が想像出来ると言うんだ。
「初めからお前は俺を一個人として見てくれた」
 私はシリウスが思っている程公平で、慈悲深い人間ではない。
 そう言いたかったが、シリウスの優しい手が、私の髪を撫でていてそのなんとも言えない感覚に私は魔法を掛けられたみたいになにも言えなかった。
「気が付いたらお前の事を目で追っていた」
「シリウス……」
 さっきまで普通に会話が出来ていたのに、今ではシリウスの名前を呼ぶので精一杯だった。
「なにをしていてもお前の事ばかり考えている」
 シリウスがなにか喋る度に、真綿で首を絞められているかの様な息苦しさを覚えた。
「誰にも渡したくない……好きなんだ、お前の事が……」
 告白って、もっと甘いモノだと思ってた。
 でも、実際には甘さなんてなくて、私はシリウスが好きでシリウスは私の事が好きな筈なのに、シリウスの好きな私は私じゃなかったし、私が好きなシリウスも、シリウスじゃなかった。
「ごめんな……」
 そう言ってシリウスは私にキスをした。
「好きなんだ……でも、ごめん……」
 頬を伝うシリウスの涙はとても冷たくて、抱きしめてくれるシリウスも雨に濡れたかの様にとても冷たくて、震えていた。
 もしかしたら今シリウスに私は絶対に貴方と裏切らないだとか、貴方だけを愛しているだとか、そんな特別を感じる事を言えば、シリウスと恋人になれたのかもしれないし、シリウスを泣き止ませる事が出来たのかもしれない。
 でも、ずっと一緒にいたから、私はシリウスの考えている事も分かるし、シリウスも私の考えている事は分かるだろう。
 例え付き合ってもこの生温い関係の延長線にしかならないだろう事は明らかで、なにより嫉妬や喧嘩した後に友達だった頃の様に仲直りして簡単に元には戻れないというのが分かっているから。
 そこまでお互いの事が近くて、失うのを恐れるくらいにとても大きな存在になっていたのだ。
 でも色々言っても結局は恋愛では心は満たされなし、なにより傷付くだけの勇気もない。
 シリウスとは、永遠に側にいて欲しいけど、私にはシリウスを幸せにできないのは分かっているから、一晩一緒にいれればいいんだ。
 大切な友人だから、シリウスが傷付くなら私が傷付く方が楽だって事はずっと前から気が付いていたが、私は臆病者だから、もしかしたらその大切な友人を失うかもしれないという可能性に傷付く勇気はない。
 結局はそこに辿り着くのが分かっているのだから、傷付く勇気のない弱虫で臆病な自分の思いを過去の一コマにする前に耐え切れずに言ってしまったというシリウスの気持ちも分かる。
 でも、好きって気持ちは、普段は抑えていても時折自分の分からないところで勝手に暴走する。
「シリウス……」
 シリウスが言わなかったら、私が言っていたかもしれないから。
「ごめん……シリウス……ごめん、でも、好き……」
 シリウスに抱きしめられて、そして抱きしめたのは、これが初めてだった。
 でも嬉しさを表す言葉よりも謝罪の言葉しか言えなくて、抑えきれなくなった涙が溢れ出してきた。
「ごめん」
 謝っても現状を打破できる訳でもないが、かといって私は救いの手を差し延べる事も出来なければ、優しい言葉も言えない。
 結局、情けなく謝る事しか出来ない臆病な私でごめんなさい。