ひねくれもののスイートハート
4月1日はエイプリルフール。嘘をついても良い日だ。
めいゆい、よんでた。嘘であることは声色で気づいたが、分かったとだけ返事をした。実際に呼ばれていたら、それはそれで嬉しい展開ではあるし。どこにいるかは聞かなかった。どうせ嘘を教えられるに決まっているからだ。ジュノワーズ。あのいたずら好きの子供にはもってこいの日だろう。
彼女の居場所は知っている。というより、ジュノワーズから彼女の行動範囲を叩きこまれたといった方が近いか。旅を一緒にしているメンバーだけあって、彼女のことは詳しい。聞いていなくても伝えて来るので、いらないと思えるような情報も知っている。困惑するこちらの顔を見て楽しんでいるに違いない。ジュノワーズはそういう性格だ。
何か所か足を運んで、当たりを見つける。いた。ベンチに座って読書をしているらしい。やっぱりジュノワーズの言葉は嘘だったと確認をしつつ、ある考えを実行しようと笑む。企みがバレないようにポーカーフェイスを作り、ふらふらと彼女、美羽のもとへ歩く。
「膝、借りるぞ」
応龍が持っている美羽接近のための飛び道具だった。元々は疲労困憊で美羽に会いたくなった時に何も考えずにやってしまったことだったのだが、思いのほか反応が悪くなかったので疲れている時には行うことにした。普段はさすがに照れくさくて出来ないが、こんな日ぐらいはいいだろう。
美羽の返事を聞かずに、その膝の上に頭を乗せる。
「ちょ、ねえ、重いんだけどー」
迷惑そうな言葉ではあるものの、退けようとしないからセーフである。この娘は根はとてつもなく善人であるため、疲れている人を無下に振りほどくことはしない。応龍もそれを分かっているからこそである。そんな言葉など聞く耳も持たず、目を閉じる。美羽はわあわあ騒いでいるが、少し経つと大人しくなった。普段は眠りに落ちてしまっているので知らないことだった。エイプリルフールに乗っかっていたずらとして行ったことだが、楽しい。疲れている時には余裕がないが、今はそんなこともない。
しかし、思った以上に破壊力のある行為をしていることにも気づいている。羞恥心もある。それよりも楽しい気持ちが勝っているだけで。甘い香りが鼻孔をくすぐる。頭で感じる柔らかさと温度。息遣いの音まで聞こえそうな距離にいる。視界が遮断されたから、余計に強く感じる。呼吸のリズムまで。のどかな公園の音たちが何故か遠くに聞こえる。
「寝ちゃったのー?」
少しして、美羽が確認のように呟く。
手が、応龍の髪を優しく撫でる。これは、また、凄まじい発見だった。恐らく、今日一番の。恥ずかしいと嬉しい。どう言い表したら良いか分からない。強いて言うならときめき、なのだろうか。
「……疲れてるのかなー……」
気遣うような声色だった。
「疲れてる人に、重いって言っちゃった……」
ふぅん。こうやって一人反省会をしているのか。ため息をつきながらも、応龍を撫でる手は優しいままだ。落ち込んでいる美羽を見ているのはいたたまれなくなって。思わず、片目を、開いて。
「!?」
目が、合った。
「っー!? っ?! っ!!」
美羽は絶句していた。顔が真っ赤だったが、たぶんそれは応龍も変わらない。なんだこれ、想像以上に恥ずかしい。そして最初に出たのが。
「僕は何と言われようが気にしていないからな」
会話のキャッチボールのようで、全く空気を読めていないフォローだった。
「……寝る」
再度瞳を閉じたが、もちろん眠れるはずはなかった。