捨てる神あれば拾う神あり


「お、ようやくお目覚めのようだな」

目を開けたら意外と近くにアルヴィンの顔があった。アルヴィンの香水に混じって焦げた臭いと口の中がなにかでざらついている現状から実験に失敗したことを思い出した。

源霊匣の研究を始めてまだ三ヶ月。正直、進行状況は思わしくない。精霊の化石を手に入れるため業者に頼もうとすればコストがかさむし、かといって研究者を引き連れて移動するにも安全性の確保ができないわけで。エレンピオス人は精霊術を使用することができないため、というところも考慮した決断ではあるのだけど。

あたりには誰も居ない。バランさんやマキさんは大丈夫だろうか。アルヴィンがなにも言わないので大丈夫なのだと言い聞かせて別の言葉を紡ぐ。

「失敗したみたいだね…」

だろーな。そう言って彼は私を立たせてくれた。どうやら私が気絶してから膝枕をして看病してくれたらしい。アルヴィンが今此処にいるのは私たちが扱っている精霊の化石を手に入れたという事で運んできてもらったのだ。一体どんな経路でと訊いたことがあったのだけど曖昧にはぐらかされたから多分簡単には説明できない話なのだろう。きっと彼なりの事情があるのだ、そう思って私は何もきかないでただただ持ってきてくれたソレを大事に扱うのみ。

「ごめん、アルヴィン。次の商談とか大丈夫?」

「ああ…それならユルゲンスに頼んでるしな。あいつならやってくれるさ」

ポンポンと白衣の塵や埃を払って部屋の大半を硝子や金属の欠片だらけにしてしまったこの部屋をどう片づけるかという問題点を考えた。アルヴィンにも手伝ってもらえるかをきき、二つ返事で返ってきたので早速掃除に取りかかることにした。

「んで、どうして爆発したんだよ」

「多分だけどね。精霊の力が反発した結果だと思うの」

現段階で私たちは安全性を重視としている。そこで精霊の力を抑制するコアを取り付けてみた結果がこれだ。マラカイト鉱石との相性が悪かったのかもともとの力を押さえる必要性もないんじゃないだろうかとかまだまだ考えるところはあるけどとりあえず今言えることはこれだけである。

「小さな命を無駄にしてしまったことだけは確か、かな……」

いくら今回使用したのが微精霊クラスであろうと精霊は精霊。これからどれくらいの犠牲を払っていくのだろう。きっとバランさんやマキさんにも迷惑をかけていくのだと思うし、やっぱりアルヴィンや皆にも頼っていってしまうのだ。
なるべくは自分の力で何とかしてみたいけれど、

「ほい、そこまで」

「!」

ぽすっと大きな手のひらが頭を覆った。
そのままぐしゃぐしゃに髪の毛を乱した。いつもは年頃なんだから少しは女らしく整えろよとうるさい彼がぼさぼさの髪の毛に仕立て上げた。

「少しくらい迷惑かけろよな」

多少の迷惑大いに感謝って言葉もあるだろ?って私の知らない名言を残していく。アルヴィンは昔からよく気づいてくれて。その都度何かと助言してくれてしこりを取り除いていってくれた。多分私はそんな彼が好きなのだろう。何度裏切られてもまた隣にきてポンッと頭を撫でてくれると思っていたから、と一緒に旅をしていたあのころを思い出した。

「…アルヴィンに撫でてもらうの久しぶりだね、」

「んー、言われてみればそうかもしんねーな。もっと撫でてやろうか、甘えん坊のファルスちゃん」

皮肉めいた言い方をしても撫で方には情がこもっていた。甘えん坊と言われるほど甘えた試しは多分あまりないと思うのだけど。それでも少し、今だけは甘えていたくて彼の服にしがみついた。
研究に根を詰めすぎたかもしれない。
少し弱っていたのかもしれない。取引先のスポンサー様に期待の目で見られたのがやっぱりプレッシャーだったのかもしれない。
研究にかり出されている方々の家族の方に睨まれてしまう毎日に少し壊れかけていたのかもしれない。



「アルヴィン、好きだよ」





捨てる神あれば拾う神あり
(皆が私を捨てても貴方にだけは捨てられたくない)(結局、私が捨ててしまったのだけれど、)

2014.1/14


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