料理を見つけたのは一時間後


ガリッという感触。じわじわとする痛み。
気づいて私は溜息を吐く。

ルドガーたちと旅を共にするのも長くなってきた。最初は嫌気しかなかったこのパーティメンバーも私の知る人とは違う部分を見せてくれる面白い人たちだ。
私の知らないガイアスとミュゼ。私の知る世界ではきっとならなかったであろう二人も今は何故か共闘している。

左頬の裏側が気になって舌を這わせばエルが気になったようで。子供ながらの素直で大きい声がこの場一体に広がった。

「あー!ファルスアメ食べてるー!」

勿論それはエルの杞憂であり、否定の言葉を並べるが皆の顔は殺伐としている。なぜならそれはルドガー流の[拾い食い]のせいだ。ルドガーが多大な借金を背負っていると知ったのは私がこの世界にきて和解する頃だったのだが、まさか食費をケチっているとは知らずグミを頬張って怒られてしまうケースがあった私。
だが、同じ様な結末は起こさせない。
何度も同じ事を繰り返すほど馬鹿じゃない。

今となっては血眼になって皆と一緒に食べ物が落ちてないか探すことに興奮を得ているくらいだ。そんな私たちはかれこれ昨日の夕食分で料理をきらしていた。食材だけならある。トリグラフにさえ戻れればきっとルドガーが極上な料理を披露してくれることだろう。だけど調理器具のないこの街道のど真ん中、明らか今日一日だけでは最寄りの町にすらたどり着けないと言う状況でのエルの発言は爆弾発言、とも言えるだろう。

証明するために「あー」と言いながら口を開けた。舌の下に隠してるんじゃないのー?と諦めきれないらしいエルに舌の裏っ側まで見てもらう。納得したエルはネコ派遣に行ったルルの帰りを待つばかり。料理を持ってきてもらったことは一度もないが、魚くらいなら焼き魚で代用できるだろう。そうでもしなきゃ今日が保たない。

つい左頬の裏側を歯で挟んでしまう。
そのまま皮を噛みきった。じわじわと漏れてくる血の味を良くは思わないがそれでもどこか満たされるような気がした。
もう何度も繰り返しているせいで舌でその部分をなぞればザラザラと凹凸ができている。一度かじれば二回三回と同じ事をしてため息。
いや、悪い行為だって分かっているのよ。
粘膜から菌がはいる可能性だって低い訳じゃないし刺激の強い食べ物を食べるとしみて痛い。
昔からの癖、というやつだ。
これでも昔より頻度は少なくなっている。昔はよく治りかけで噛みきっていたものだ。今は数ヶ月くらいに、か。血を飲み込むのも体調が良くなるわけではないからあまりしたくない行為だが口から唾を出す要領でやるのはなんだか……美しくない。というか女性らしくない。

「………ファルス。もっかい「あー」してみて?」

ジュードが恐い笑顔で目の前に立つ。あれだ、何か悟ったときの顔だ。彼はグローブを外して私の口の中を調べる気満々のようで。一向に開けようとしない私に後ろめたいことでもあるの?と言う始末。
ダメだ。空腹が過ぎてキャラすら保てなくなっている………!

(マモレナカッタ………!)

どこかで聞いたことがあるようなフレーズを思い浮かべ、私はおずおずと口を開く。開いた瞬間容赦ないジュードが両方の親指を入れて口の中を見る。そしてため息。私もため息。

「やっぱりね……。いくらおなかが空いたから頬を噛むなんて子供みたいな事、流石のアルヴィンでもそんなことしないよ?」

「ちょっと待てジュードくん!俺、そんな目で見られてんの!?」

不憫アルヴィンはエイエンにー!ティポの声を聞きながら私は返す言葉も思いつかず半笑いの状態だ。噛んでしまったものはしょうがない。少しの間気にはなるが気づけば治っている。こんなものは飲酒喫煙その他刺激の強いものを食べ過ぎなければ自然治癒でなんとかなるものだ。粘膜感染の恐れもあるとはいえ私に男は居ないし、間接キスのようなことさえ気をつければ問題はないはずだ。

「……はぁ、とりあえずじっとしてて」

「ジュ、ジューロ…ほんなのはひぶんででひる、」

「じっとして」

ジュードはこんな怪我にもみたないものに治癒術を施す。親指をつっこまれた状態の私としてはそれはすごく情けない話である。それに私も一応医者だ。境遇は違うにしろ、だいたいの知識は身につけているしジュードほどではないかもしれないが対処はできる。

「…ぁ……う、」

彼の親指のせいで呂律が回らない。
何か別の意味での羞恥が生まれてきた。正直、舌の行き場もない。
これは診察。これは診察。
だめだ、見てあげる立場なら私も何も気にしないけど見られるのはやっぱり抵抗あるよ……!
ジュードも逆の立場の気持ちを理解してくれればいいのになんて思ってしまうくらい。

皆に見られているという事もプラスされてしまい目の前の真剣なジュードを見るわけにも行かない、これまた視線もやり場に困る。ジュードが指を離す頃には涙目になっていた。



「ええっ、何で涙目!?」



温かい目が痛かった。
(ジュードクンのバホー!ってお礼よりも先に言ってしまった空腹時間)

2013.9/1


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