世界に君はいらない

[ludger side]

自分の必要性を考えさせられる。

行く先行く先敵意の目で見られてはこの手で全てを終わらせてきた。これも自分の世界のため、皆のため。そう思うとほんの少し気が楽になる。ほんの一瞬の話だ。
本当は恐くて吐きそうになる。目を閉じると思い出したくない感触がまだ残っているような感じがして手を切り落としてしまいたくなった。
世界を壊す、なんて言葉にしても他人ごとにしか聞こえないけど実際は物凄く恐ろしい。こんなことを今まで俺の知らないところでユリウスはやっていたのだろう。一体、どんな気持ちで。


「私はルドガーがやめたいと思うならやめてもいいんじゃないかって思う」

もしそれで未来が終わってしまっても世界中の人々はあなたの行いを知らないんだから誰も責めたりしないよ。そう言ってファルスはコップ並々に注がれたミルクに口をつけた。宿屋の食堂に居るのは自分とファルスだけ。彼女はいつもそうだ、自分の意見より他人の意見を尊重する。それがいいことであるかは分からないけれど少なくとも自分にとっての少ない相談相手なのだ。

「でもファルスは俺を責めないか?別の世界から連れてきたのにその先でも死を待つだけなんて……、」

「私はー……今が楽しいから、いいかな。前までは源霊匣の研究で頭がいっぱいだったけど今は解放されて自由に行動させてもらってるし」

笑った彼女は本当にそう思っているようだった。口元が真っ白なまま喋る彼女は当初の印象とは違い幼く感じる。続けて「別にルドガーだけが気負うことはないでしょ」と話を戻しだす。

「ルドガーはやりたいことをやればいいんだよ。今は料理がしたいと思ったら料理すればいいし、分史世界を壊しに行きたいなって思ったらやればいい。エルと遊んでいたいなら気の済むまで遊べばいいと思うよ?」

小さく職にもついてないしねとわらって残りのミルクを飲み干した。ファルスのそういうところ、好感がもてる。まるで何かの宗教に入ったような気持ちになる。説かれた言葉を鵜呑みにしてしまう気持ち。でも、きっと好き勝手に行動したいと自分でも思っていたのだろう。

「だけど、借金がな……、」

ぼやいた言葉をかき消すようにGHSが鳴り響く。新たな分史世界が見つかったみたいだ。何も言わなくても察してくれたようでファルスはただ頷いて返却口に使用した物を片づけた。


分史世界での宿屋の中もがらんとしている。街で捜索すること数分、考え込んでいるようにみえたファルスが思いついたように口を開いた。

「借金で自由になれないならいっそのこと分史世界に住むってのはどう?」

「は……!?」

冗談を言うような声色で。でもその顔はいたって真面目だった。時歪の因子を捜索していた足が止まる。突拍子もないことに頭がついていってない。

「分史世界[こっち]だったら行動制限ないでしょ。時歪の因子の目処をつけて殺さないように過ごせば楽しいかもよ?何にも縛られないし、充分充実したら還ればいいよ」

何度か経験したことを踏まえて彼女はこの世界の時間と正史世界の時間の流れは違うと思うと言った。本格的な調査をしているわけではないから殆ど当てずっぽうなんだけどねと色んなことを言い始める。

「そんなこと……、」

「できるできないじゃない。やるかやらないかの問題だからね。ま、私は関係ないけれど」

数歩先を歩いて、くるりと振り返る。
楽しい玩具を見つけたみたいに笑うその姿を見て俺は気づいた。彼女は俺を心配してくれているわけでなく、ただ自分が思う面白い方向へと歩ませているのだ。下らない言葉を並べてその中に自分もおさまろうという考えなのだろうか。
彼女の本性に気づけたはいいが、もう取り返しもつけられない。ファルスの言うとおりにしたら俺はもう、面倒な全ての事柄から抜け出せると知ってしまったから。


「今はルドガーに着いてきてるんだからルドガーの選択に委ねるよ」




入らない存在。
(本当に入らないの面倒くさい世界そのものなのかもしれない)



不意に背中が熱くなる。脈打つのがわかる。とめどなく何かが溢れてくるのが。ゆっくりと後ろを振り向いてそこにはファルスと自分そっくりの人がいて。
彼女がいつもより饒舌だったのはもとより自分の知る彼女ではなかったからなんだろうか。いつ、入れ替わったのかそもそも俺の知るファルスはどこにいるのだろうか。考えようにも頭が回らない。視界もぼやける。

(バイバイ、ルドガー)

───彼女の声が聞こえた気がした。



※別の分史世界のファルスと(多分)どこかの分史世界のルドガーのお話
2014.7/12


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