高熱リバウンド

[heroine side]

風邪を引いた、低体温の私からしたら高熱である。そもそも低体温とは何度くらいからあげられてしまうのか些か疑問をもってしまうのだけれど今の頭で考えるのはちょっと厳しいもので。
冷蔵庫の中で冷やしておいた冷えピタをおでこに貼って、毛布にくるまってソファで横になっていた。暇な時間だけど、動くと頭がぐるぐるしてしまう。暇に飽きてGHSを弄ってみたけど、ダメだ視界が定まらない。

(寝よう………) 


目を開ければ明るい太陽の日差しから赤々とした夕焼けに変わっていた。結構な間、寝てしまっていたようで私は夕食の準日をと思い立ち上がる。ヒュウヒュウと喉が鳴るようになり、症状が悪化していることを実感して。それでも叱咤を打って重たい身体を引きづった。

ぼぉ…と揺らぐ視界。包丁を握っているはずなのに感覚すらない。力も入らない。料理は断念、仕方なしにジュードに帰りに何か買ってきてほしいことを簡潔に伝えてその場で横たわる。フローリングの床がとても冷たくて気持ちいい。火照った頬を擦り付けて熱を逃がすことだけに必死になった。


「ファルス、起きてってばファルス!」

目をあけたら血相を変えたジュードがそこにいて。私はいつものようにおかえりと言った。ジュードはガサッと手荒く買い物袋を床に置き、かわりに私を軽々と持ち上げた。おお、流石は男の子。力持ち。ぶつぶつと小言をもらしている彼に適当なところで相づちを打ってじくじくと痛む頭痛を我慢した。一定間隔で揺れるその感覚。そのたびに響く頭、きっとジュードは知らないだろうけど。

「ほら、薬。食前のだからいま飲んで」

ジュードのベッドを占領する形になって。布団を深々とかけられて乾きかけていた冷えピタを新しいものと取り替えてもらい、少ししてからコップと薬を持ってきた。流石はジュード。テキパキ行動するその姿はまさしくジュード先生と呼べるだろう。
上体を起こして薬を飲み込んだ。水が体内に流れていく感覚が分かる。
火照った身体を癒やしたくて注いであった水をすべて飲み干し、また横になって目を閉じて。少し呼吸のしやすくなった私。早速薬の効果だろうか、なんて思う。部屋を出たっきりのジュードが戻ってきたのはそれから少したった後のこと。あつあつの土鍋をお盆の上に乗せてもってきたのだ。

(お粥、かな……、)

正直柔らかいご飯は苦手。いや、わざわざ作らせておいて文句を言うつもりは毛頭ないけれど全部食すことができるか問われれば微妙だな。ほくほくと湯気が漂い中がよく見えない。起き上がって目を凝らすように見ればそこにはお粥ではなくうどんが入っていて。

「あれ、私お粥苦手って言ったことあったっけ」

「やっぱり苦手なんだね、良かった」

どうやらジュードもそういう柔らかいご飯というものは好みではないらしい。流石は私。世界の壁を越えても好みは大体変わらないようだ。ジュードは太い麺を慣れない箸を上手に使って挟む。反対の手にはレンゲが握られており、麺の汁がこぼれないように下に添えていた。
そして、ふう、ふうと麺を冷ましているその彼の姿にさすがの私も止めに入った。

「ジュード、それくらい自分でできる、」

「ダメ。病人は大人しくしていて」

優しい声でだが、しっかりと芯の通る声で言い放ち、言われたとおり大人しくなった私を見てまた息を吹きかけはじめる。

「はい、口開けて」

そう言われてもどうしていいものか。ご飯と違ってスプーンですくわれたものを口の中に入れるのとは違うのだ。唇で挟んでそれを吸い込まなくてはいけないのだ。どうやらジュードは「自分が嫌だと思うことを他人にやってはいけません」と教えてくれたはずの母さんの言葉を忘れてしまったようだ。はたして知らないだけかもしれないが。

目の前まで箸を持ってきたので覚悟を決めて目の前のそれに口付けた。ちゅるちゅると小さく音を立てて口の中に入れ咀嚼する。熱くはない、むしろ美味しいという感想が妥当だけど色んな意味で熱い。こんな風に同年代の異性から手厚く看病されたこともなかったからかもしれない。もともと風邪もめったにこじらすこともない、いたって健康。それが取り柄だったから気にすることもなかったのだけれど。

いまの私はまるで餌を欲しがる雛鳥。口をパクパク開けなければいけない羞恥心。親鳥は最初こそは真面目だったんだろうけど今ではちょっと楽しそう。個人的にむかつく。


「はい、これで終わり」

ようやく最後の一口。これなら一人で食べた方がはやいに決まっている。そんなことを思いながら飲み込んで「ごちそうさま」といえば「お粗末様」と返ってきた。タオルで口元を拭かれてゆっくりと寝かされた。



「ファルス」



高熱リバウンド
(去り際にほっぺにひとつチュウをする)(母さんが昔よくやっていたことを思い出した)

2014.1/23


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