お転婆貴女と僕

[jude side]

船を降りるとガヤガヤと野次馬が集まっていた。その中心にはトリグラフで見たときのような白衣を着たファルスさんと、なぜか横たわっているイバルがいる。警備員さんに絶賛叱られ中のその光景の説明を先に下船していたルドガーに頼むとどうやら街中で暴れたのはイバルではなくファルスさんの方だったらしい。

「あの二人は付き合ってるのか?」

「それを僕に訊かれても……、」

「ファルスね、ほっぺたリンゴみたいだったよ!これがトクベツなカンケイってやつ?」

「だから僕に訊かないでよ……」

ルドガーもエルも僕に訊く。僕はイバルに対して顔を林檎色に染めることは一切ないし。第一イバルはミラ一筋だ。ミラの忠実な犬と言っても過言ではない。この世界でミラ一筋なイバルであるのかは定かではないけど。

ミラさん。そういえばミラさんの姿が見えない。
まだ船の中に居るんだろうか。僕のGHSが鳴る。レイアからだ。珍しく顔文字もないその文面は「イバルが気絶している間に街道の方へ出てってだって!」とあった。だってということはファルスさんのメールの本文を引用したんだろう。
僕はルドガーとエルに書いてあったとおりのことを伝え、街道の方へでる。
野次馬たちの隙間から一瞬見えたファルスさんはイバルを引きずるように宿屋に向かっていた。


「ごめんなさい、待たせちゃった」

彼女がパタパタと走ってきたのは他の皆が集まって少ししてからのことだった。
ルドガーが大丈夫だと言えばよかったと息と共にもらす。
カラハ・シャールまでの限られた時間の仲間が増えた瞬間である。

道中、エルがルドガーに耳打ちをし、ルドガーがファルスさんに耳打ちして殴られていた。多分さっきの話を本人に言ったのだろう。
顔を真っ赤にして反論しているその姿をみてアルヴィンは僕に聞こえる程度の声音で「あいつ、どう思う?」と言った。どう、とはどう意味だろう。

「好きか嫌いって事?」

「俺はジュードが好きだぜ」

「はいはい、僕もアルヴィンの方が好きだからからかうのは禁止」

嘘は言っていない。初対面に近い彼女と一緒に旅してきたアルヴィン。天秤にかけなくてもアルヴィンの方が上だ。ジュード最近手厳しくなってるなーと笑うアルヴィンは少ししてから小さく呟いた。

「……なんかあいつ、昔の自分見てるみたいでムカつくんだわ」

「…………、うーん…どこかの誰かさんとは違って何度も裏切ったりはしなさそうだけどね」

してやったりな笑みで返せば「お前ホントに俺のこと友達だって思ってる?」と眉をひそめられた。大丈夫、僕はアルヴィンを信頼してるから。なんて言ってあげないけど。

エルがルドガーから離れて僕たちの間に入ってくる。

「ねえジュード、イバルって人、トクベツなカンケイでなくてメル友だったよ!」

「あ、ちょっとエル!私たちの秘密を勝手にバラしちゃダメでしょ」

悪い子は針千本なんだよー。と両手をぐねぐね動かしてエルに襲いかかるこの人が分史世界での僕だとは到底思いにくい。見た目に反して中身は僕に近い部分はあまり感じられなかった。僕よりもよく笑い、よく怒る。表情が豊かなのだ。
彼女に捕まったエルは見事持ち上げられた。

「こ、こどもあつかいダメー!」

じたばたと身体を動かせば見事エルの左足がファルスさんの腹部にクリーンヒット。衝撃でエルを支えていた手を離してしまった彼女はしりもちをつく。エルの方はアルヴィンが支えたから大丈夫。
ポケットからおちるGHS。開かれていたその待ち受け画面を見ない振りして閉じた。目の前に手を差し出せば素直にとって立ち上がるファルスさん。白衣は多少汚れてしまったが怪我自体はなさそうだ。

「GHS…見た?」

見てないと首を横に振ればそう、と視線をはずされる。素っ気ないを通り越している。明らか自分に対して敵対意識を向けられているような気分だ。

エルがごめんなさいと謝り、ファルスさんもこちらこそごめんなさいと謝った。
でも今度秘密にしてほしいこと勝手に言っちゃったら針千本だよー?頭を撫でながらまっすぐな瞳でエルに忠告をする。



「うん!ハリセンボン痛いもんね!」



あれ、イントネーション違う?
(針千本のっといこーるハリセンボン)

2013.8/22


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