[jude side]
結論から話すと僕が命を落とすことはなかった。
あの後一から順にルドガーが説明をして無事に僕は解放されたのである。
此処が分史世界だということ。僕たちが正史世界から来たということ。僕たちの世界では生きているはずのないクレインさんがこっちの世界では生きているので会ってみたいという事も全部を伝えた。
「……じゃあ私の知ってる皆は、消えてしまったということなんでしょうか」
自分たちの目で確認したわけではないから断言はできないが正史世界で出会ったことのないファルスさんのアドレスがレイアのGHSに登録されていたという事はきっとそういうことなのだろう。
一生懸命理解しようとしてはいるのだろうがついていけない、といったところだろうか。彼女は何かの切っ先を首もとにあてていたその手を下げて「ごめんね」と謝る。むしろ謝りたい気持ちになったのは僕たちの方だ。
世界が壊れる前に自分の大切な人たちが目の前から消えてしまった。世界が一瞬で終わってしまうにしろ、孤独死ということだろう。僕がこの人の立場だったら意気消沈もいいところ。早く世界を壊してくれと言わんばかりになってしまうだろう。だって僕のことをわかってくれる友人がいない世界で頑張って生きろと云う方が難しい。ミラが一瞬でも居なくなった去年の自分に逆戻りだ。絶対、そうだ。
「最終確認、ってことでなんだけど。ジュードくんって兄弟いないですよね」
「……はい、」
「そっか…、じゃあ私はさしずめジュードくんの代わりに生まれたってことかな」
性別も名前も違うから私とジュードくんは一緒の場所に居られるってことなんでしょうねと薄く微笑んでいた。僕がよくやる営業スマイル。ズキンと鈍い痛みが胸の奥で響いた。
話し込んでいた時間も結構あり、サマンガン海停に着くのは翌日になりそうなので各々あてがわれた部屋で休むことにした。僕はアルヴィンと同室。ファルスさんはミラさんが挙手して同室を願っていたのでミラさんと居ることだろう。
「………はあ、」
僕は先ほどのことがあってうまく寝付くことができない。
彼女はあの後こう言っていた。
「私も皆さんの力になれるようなるべくお手伝いさせていただきますね」
その言葉にミラさんがキレてしまい皆で取り押さえる始末となった。ミラさんは望まないかたちとして分史世界を破壊されてしまったのに対してファルスさんは破壊を望んでいる。それは多分どちらも正しい感情なんだと思う。そして彼女は「この世界を壊さないと皆さんが帰れないんですよね。ならやっぱり壊さなきゃ」とミラさんの目を見て言い放つことができた。意味わかんないとぼやいたあの時のミラさんも怒る気を無くしてしまったようで。その決断力に素直に憧れを抱いた。
アルヴィンはもう寝ちゃったのかな、背中を向けているから判断にしかねる。
ベッドからおりて風に当たってくると一人呟いて部屋を出た。返事は返ってこなかった。
通路を歩いていると話し声が聞こえる。
例によって彼女たちの部屋だ。
「私には理解できないわ。どうしてあんたは自分の居場所を壊そうとできるのかしら」
「そんなの決まってるよ。私の宝物はもう失ったも同然なんだから」
「………そう、あなたはそれだけ皆のことを信頼してたのね」
「うん、でももう空っぽ。どこにも拠り所なんてないよ。どうすればいいのか、分かんないや」
次第に泣き声が聞こえてきた。
僕は居たたまれなくてその場を去る。
どうせ壊れてしまうのだから感情移入なんてしないほうがいいのは分かっているんだけど。だけど、駄目だ……どうしても自分に重ねてしまう。自分と彼女の立場が逆だったらと考えた。仲間から剣先を向けられるのは恐かっただろう、いろんな意味を含んだ視線でじろじろと見られたのにも嫌気を指したことだろう。仲間だった人たちが次会ったとき赤の他人になっていたらその気持ちはどこへぶつければいいんだろう。今回、ミラさんが居たからよかったものの居なかったらそのストレスをため込んだまま、……殺されていたんだろう。
「僕だったら手伝う気力もないだろうな……、」
自分に当てはめてみたら
(営業スマイルすらできないよ普通)
2013.8/20
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