[heroine side]
無事退院した私はディラックさんにお礼の言葉を行ってジュードに家へと帰ることになった。途中までは皆一緒、マクスバードで散り散りとなった。
ルドガーたちとはトリグラフまで共に行動することに。途中魔物との戦いがあり、そのときグローブを所持してなかった私はジュードが昔使っていたという小さめのおさがりをもらって戦っていたのだがこの感触が何というかもう。まるで私のためにあるんじゃないかというほどのフィット感にいつも以上に気持ちよく戦えた、気持ちよくだなんて変な話である。
リビングには置き手紙が一人寂しく置き去りになっていた。ため息を吐くこの家の主人。デコピンひとつにその紙をびりびりに破り捨ててしまう。別に何も言わない、何も思ってない。
ゴミ箱にパラパラと散り散りになった紙を捨てて私に向き直る。
「おかえり、ファルス」
「……ただいま。ジュード」
というわけで只今ドロッセルの家でお茶会です。
本当何というか、『何もしなくていい』ということがこんなにも時間を持て余すことだとは思っていないもので。自分一人でいえにいると家にいるとまた余計なことを考えてしまうだろうからと日中はルドガーと共に行動することになりましたとさ。ルドガーに続き、ミラ、そして私と。つまり連れ子その三というわけね。
「それならここに住んでくれてもいいのよ?空き部屋ならあるし、皆集まる場所としても最適でしょう?」
「なんならルドガーんちに住んでもいいよ?ね、ルドガー?」
エルの言葉にルドガーが首を縦に振る。ほら、ルドガーもいいって言ってる!と明るい笑顔を振りまいたがそうなってしまったらルドガーの家は託児所になるじゃない。
そんなことを思ってたらミラに睨まれた。変なこと考えたでしょと言いたげな目。当たりなので目線を反らすことしかできない。
「それにしても残念ね。今日が休校日だったらエリーゼも喜んだでしょうに」
エリーゼは学生なので今は授業中と言ったところだ。一年前まではまだ自分もそう変わらない暮らしをしていたはずなのになぜだかとても懐かしく思えてしまう。そもそも一年前といっても殆ど学校から、いやイル・ファンからも追放されていた身だ。だから学校での生活というのも記憶から薄れていったのかもしれない。
「エリーゼにはちゃんと学校での生活を楽しんでほしいですね」
「……あなたは楽しくなかったの?」
楽しくなかったと言えば嘘になるが、楽しい以前に指名手配されていたのだからなんとも感想がだせない。あの時私の知るミラに会うことがなかったらきっと指名手配はされなかっただろうし一年前の事件に巻き込まれることも、私の世界の消滅のことも知らず終いだったろう。
こうしてドロッセルの家でお茶会にさそわれることもない。
「総評していえば楽しかったのかもしれないな」
「……どういうことよ、」
「学校生活はともあれ今の人生は楽しいってこと。こうしてお茶会ができるなんて幸せ者だよね」
それがたとえつかの間の幸せだったとしても。今はこの幸せを噛みしめたい。確かな仲間の輪の中に余所者の私は入れてもらっている。お菓子をつつくエルや話の聞き役に徹しているルドガー。私の世界ではもう居なくなってしまったドロッセル。
そして、ミラ。みんなといつまでも仲良くしたい。
胸の奥がざわざわする。この楽しい時間が壊れてしまうのを恐れているのが分かる。
不安を振り切って紅茶を一口。
「この世界もあったかいね」
戻ってきた日常。
(楽しいことを忘れないで)
2014.5/15
- 58 -
[*前] | [次#]