ゆびきりげんまん

[heroine side]

目を覚ました二日後には身体を起こすことができる位には回復した。まだ少し痛むが多少の我慢、傷口が開きさえしなければ迷惑かけることもない。臨時担当医であるジュードはまだ動かないでと同じ言葉を繰り返すばかりだがそうも言ってられない。こんなところにいるくらいならジュードの家で厄介になっていた方が私のメンタル面が楽になる。この担当医はメンタルケアを行ってくれない、全くのやぶ医者だ。

「ねえちゃん!」

「おねえちゃん、大丈夫!?」

「ケガ、したってきいて、ぼくたちのせいで……」

窓とジュードの家にある本と寝ることしかできない現状、かなり暇だなとぼんやり昼の穏やかな光に照らされてうつらうつらとしていたとき、レイアと一緒に漆黒の翼の面々がお見舞いに来てくれた。
三人は入った瞬間色々話し出す。どこかの国ではいろんな人の話をちゃんと聞き分けることができるらしいが私にはそんな特異体質は持っていないので三人の話を聞き分けるのも不可能に近い。

話を順々に聞くと、あの後三人はジュードたちに救出されたらしく今は宿屋で大人しくしているようだ。ガイア…アーストのコネもあってか子供ながらに働きどころも見つかったという。

「どこで働くの?」

「「「トリグラフ!!」」」

商業区に新しくアイスキャンディー屋さんができるのだとかで。人がいいのか住み込みの売り子さんとして雇ってもらえるらしい。
きゃっきゃと子供の笑みをみせてくれる三人に素直にこっちまで嬉しくなってしまって。四人して喜びを分かち合っていたらジュードが珍しく怒りながら入室してきた。
まあ、彼が怒るのも無理はない。ここには私以外の患者も居るのだから。

漆黒の翼の面々は慌てて窓から逃げ出した。別にこの人はそんな恐くないんだよと言うこともできないくらいに速かった。
レイアが慌てて三人を追う。窓を抜けて走り去った。まるで保護者代理みたい。……まあ、いいお姉さんは窓から出て行ったりしないだろうけど。

二人っきりの室内は静まり返った。
まるで、今までのことが夢のようだ。

「…もう、ファルスも子供じゃないんだからあんまり恥ずかしいことしないで」

「ごめんごめん。あんな小さい子が就職するってきいたら、なんかすごいなーって」

私は普通の学生だった。本当毎日先生の授業を受けて出させる宿題をこなして。
友達を作ったり…まあ、いじめられたり。からのレイアに助けられるって流れが多かった私の過去。きっと目の前の彼もそうだろう。ジュードは手にしていた本を差し出してきた。
暇だろうからってちょくちょく持ってきてくれるが、実はほとんど読破しているのだ。ある意味実家だからある本もだぶるわけで。でも同じ文を穴があくくらい読んだかといわれればそうではないのでまたページをめくることだろう。

それを受け取って表紙を撫でる。それは遠い昔、種族の争いのお話。恐れられた能力をもった者たちの冒険のお話。随分とまあ懐かしい。
立ち去るつもりはないのかジュードはまだそこに立っていて。私はどちらかというと静かな室内が嫌いなたちなので会話を繋ぐことにした。

「ああいう子たちってもう、強いよね。将来有望っていうか」

「でもファルスが居なかったらまだスリをするよ。きっと今みたいに充実した表情見せることはないんじゃない?」

「………そういうものかな、」

根はいい子だ。きっと私でなくとも他人に触れ合えばその子たちは改善されると思う。
子供は子供らしく生きてほしい。そんなことを思っている私ははたして大人なのだろうか。
私はどうしたいのだろう。
受け入れてくれた皆のおかげで表面上孤独ではなくなったが独りになるとやっぱり寂しいことしか考えられない。どうしてジュードはディラックさんは私を助けたのだろう。患者だからか。だけど身元不明な女なんて助けたところで治療費すら払えるわけもないのに。

「ねえ、ジュード。治療費のことなんだけど……」

「治療費…って。まさかお金とられるとか思ってたの?」

呆れた。と言わんばかりの顔で面会者が座る椅子に座り込んだ。治療費なんて気にしなくていいだとかいうが、それでは私の気が済まない。なんだかんだと言い合いをして、ジュードが「あ」と何か思い付いたみたいなので押し黙った。



「じゃあ、僕ともう離れないって約束して?」



治療費とかこつけて
(差し出される小指に私の小指を絡めました)

2014.3/24


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