独り、取り残された私

[heroine side]

皆が私を見た。その目は違和感を覚えるくらい冷たい目。息詰まりそうな感覚を振り払ってレイアに「随分と連れが多いんだね」と笑ってみる。頷く彼女は先ほど会ったときと同じ様で何かが違う、そんな感じだ。

「アンタはこれからどうするつもりなんだ?」

「私?レイアに伝えたとおりカラハ・シャールに向かうつもりだけど」

アルヴィンの質問に答え、私はこの狭い室内の大所帯を確認した。レイアの隣にエリーゼ、ローエンとアルヴィンも相変わらずという感じだ。そして後ろでこそこそと会話をしている見慣れない男性二人。なんだ子供も居るじゃないの。

「……、」

それに、ミラ。ミラがいる。精霊界に居るはずの彼女が私を睨んでいる。
アルヴィンが俺たちもカラハ・シャールに用事があるんだけどと誘われ、勿論私は承諾の道を選んだ。この不可思議なパーティーの真実を私は知りたかったのだ。

とりあえず知らない人に自己紹介をするべきだと考えた私は髪の毛を二つに結った女の子と同じ目線になれるようしゃがんで挨拶をする。

「私はファルス、キミの名前は?」

「エルは、エル。こっちはルル!」

ナァーと鳴くたいそうご立派な体格の猫が足下にすり寄ってきた。すごい弾力、圧倒的な体格、ルルの手を握らせてもらえば生まれたての子猫のような柔らかい肉球が。
よろしくねと立ち上がって隣にいた年上だろう男性にも深々とお辞儀をする。名をルドガーというらしい。

「…………、」

「あなたはなんてお名前なんですか?」

黒髪、琥珀色の瞳、明らか戦いを知っているその手のひら、そして白衣。この部屋に入ってきて一番最初に惹かれてしまった同じくらいの男の子。
性別以外がそっくりなその人はゆっくりと私の目を見つめる。

私の質問にこの場の緊張感が高まった。

明らかにおかしい。
何がおかしい?何もかもだ。
いつもならハキハキとしているだろうレイアは困ったように言葉を選んでいた。小さい頃から一緒にいた私にそんな異変気づかないわけがない。わざと何か隠しているのだとしたら変な含み笑いをするだろうし、なによりこの場全体の視線が恐いのだ。まるで値踏みをされるように上から下へと流すように見ているその目が。
エリーゼだっていつもなら抱きついてきてもおかしくないのにティポを抱きしめて黙りを決めている。ローエンもそうだ、いつもなら何かと挨拶をくれるのに今日に限って何もなし。
アルヴィンの表情は読めない。まるで昔の傭兵モード、と言ったところだろうか。

左手をベストのポケットに入れた。
これ以上考えるのはよそう。頭が痛くなる。
決意を決めた顔つきの目の前の男性は自分の名を名乗った。

「ジュードです。ジュード・マティス」

差し出される右手に私もありきたりな四文字を唱えて右手を差し出す。そして握り交わしたその時彼の体を自分の方へと引っ張った。

「っ!」

「ジュード!」

彼の背後にぴったりとつくようにして首先に鋭利なそれを突き立てる。まさか自分がこんなことするとは考えもしなかったけれどこれがこの場で一番効果的な方法なのかもしれない。
私に向けて武器を構えた他人同然の彼らは一瞬の隙も見逃さないよう息を殺す。勿論私もジュード、くんが暴れ出さないよう一瞬の隙を見せるつもりもないが。

「答えて下さい。あなた達は何者ですか。何が目的ですか。私の知り合いたちはどこにいるんでしょうか。答えなければ……ジュードくんの命はないと思って下さい」

皆が目を合わせる。その表情から見えるのはジュードくんが人質にとられた焦りだろうか、私にはよくわからない。今まで黙りを決めて睨むことしかしなかったミラが溜息混じりにルドガーの背中を押して私の前につきだした。

「ファルス、悪いのはこいつ。ジュードを人質にするんじゃなくてルドガーにしときなさい」

別にジュードくんを選んだのは首謀者だと思ったからとかではない。ただ何となくだ。何となく好きになれなかったから人質にしただけなのだ。私は人質を変える気はないと答える。



「早く答えて、誰が悪者だとかそんなのは良いからあなた達は一体何なんですか」



手に汗握りながら
(私の知らない目で私を見ないで下さい)

2013.8/19


- 5 -

[*前] | [次#]

- back -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -