[heroine side]
地を蹴って弱点を探す。見た目は馬だ。角と羽根の生えた、神々しい馬。
集中回避を繰り返して後ろをとろうと動くが、何せ馬。視野が広くて困る。持ち味の足の速さを見せつけられて距離をとられてしまった。
大きな鳴き声を轟かせて光の柱を繰り出すそれはそのまま突進を仕掛けてくる。柱の眩しさで一瞬出遅れたが、すんでのところで避けて銃杖で反撃。
光…といえば弱点は闇だろうか。グローブをはめていない私は銃杖、もしくは精霊術で太刀打ちするしかない。どちらにしても苦手だがやるしかないのだ。
銃杖は遠距離から近距離まで様々な使い方が存在する。変換されたマナで撃つ、銃と変換されたマナで放つ杖と。勿論弱点もある。充填に時間がかかるのだ。
「くっ………!」
詠唱する暇さえ与えてくれない。
三人とも無事に逃げ切れただろうか。この魔物と対峙してからどれくらいの時間がたったのかも覚えていない私は逃げるかどうかの選択をしかねている。
(とりあえず撒こう)
敵が私を判断しなければ取り合えずは安心だろう。踵を返して全速力で町とは反対の方へと向かう。耳をふさぎたくなるような甲高い雄叫びをあげながら追ってきた。
大きな体の影が私を覆う。
なかなか振り切れない、そう思っていたときだ。
「ぐっ…、あああああああっ!」
焼かれるような背中への痛み。
その場に倒れ込んでしまう。ドスンと地響きが体に染み渡る。周りにふたつの穴があり、多分それと同じものに当たってしまったのだ。
動かそうと必死にもがきたい気持ちなのだが反して激痛がやってくる。寝そべったままきつく銃杖を握りしめて集中した。
馬は最後のとどめだと言わんばかりに前足を振り上げる。
「……シャドウエッジ!」
地面から発生した闇の刃がユニセロスを貫いた。少ないマナで生成された闇の刃だ、一瞬で消えてしまった。儚い黒い粒のマナの結晶が飛び散ったのをみて私は目を閉じる。
(ジュード…)
その先の言葉もない。ただジュードの顔が浮かんだ、それだけ。やはりあの別れかたが気がかりだったからかもしれない。
動かない体に向けてもう一度前足を振り上げる音が聞こえた。
「…………、」
日差しがガラス製の花瓶に反射して私にギラギラ照りつけた。私はまた生きていた。
天井に見覚えはある。
ジュードの実家の天井。
ジュードの、って分かっているけれど泣きそうになりそうだ。
ここは一般患者の病室だ。
きっと大怪我を負ったのが私でなくジュードだったなら仕事場でなく部屋に運ぶと思う。遠目で見るだけで済ませようと思っていたのに。これで寂しくなってしまうんだから私は結構ホームシックなところがあるのかもしれない。失ってから気づく大切なもの。私がいなくなったら寂しく思ってくれる人がいてくれたらいいな。
自虐的に思いを巡らせて自分の命がまだつながれていた理由も分からないまま起きあがろうとした。
「いっ…!」
結論、無理だった。思ったより背中の怪我は酷いみたいだ。あのときは焦っていたから気づかなかったのかもしれない。
力が抜け、天井を見続けなければならない。
子供たちが心配になる。私はこうして無事だったわけだが私が見渡せるのはこの室内と窓から見える風景のみ。情報量が乏しすぎた。
それから何分、いや何十分経っただろうか。点滴がぽつんぽつん落ちていく様をみては暇を感じるこの病室で薬品の香りが広がるこの静かな室内で、私は一つの足音を拾った。
それは私のいる部屋の前で止まり、咄嗟に目を閉じる。
闇の中で音だけが響いて。歩く音、点滴の取り替え、脈を測るために腕をとられてしまった。
「……起きているのか?」
その声はとても耳になじむ
(もう「父さん」とは言えない人)
2013.12/17
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