[heroine side]
成り行きというものは本当恐いもので。
昔から物事をはっきり言うような人間であるかどうか問われればどちらかというと言えなかったりすることが多いということも原因の一つかもしれないのだけれど。
朝飯はジュードの件もあり食べられず。それから昼ご飯抜きで子供たちに付きっきりな私は腹の音を響かせながらも頑張ってお相手をしている最中です。
「ねえちゃんの強さってそのグローブ!?」
「いいなぁ、あたしもほしい!」
「強くなったら…返す、」
私はただ財布を返してもらいたかっただけなのに。ちょっと余計なことをしてしまったんじゃないかっていう後悔の念が胸につっかえています。
彼らお得意のスリを見せつけられあっという間にグローブをはぎ取られた。勿論サイズ的にあうはずもないそれを手にして、強くなった気になっているようだ。
私も小さい頃そうだったように。他人が持っているものをほしがってしまうその姿を昔の自分と重ねてしまって。仕方なしにそれを差し上げる形に終焉を迎えた。
(まあ、銃杖も一応あるしこの程度の敵ならなんとかなるかな)
なりきり用の衣装にもだいぶ馴れてきた。使い勝手がいいのだ。アップルグミとかも取り出しやすいし。銃杖で敵と戦うのも回数を少し重ねたおかげか助けを借りなくても数回の戦闘くらいなら太刀打ちできるようにまでなっていた。
首から上はいつもの私。くせのかかった黒髪が視界にはいる。
目の前で少し太くてながい木の棒を振り回したり、私の真似なのか適当に腕を振ったりしていて、私はきっと迎えに来てくれるだろうと体力を減らさないように木陰で仲間のことを待っていた。
なんだかんだで正史世界にも馴染んだものだ。
財布の中から紙切れを取り出して昔の仲間に思いを馳せる。最後に撮った写真。
クレインさんの家でお世話になった際に成り行きでとってしまった写真だ。私とミラとアルヴィンにレイア、エリーゼ、ローエン。そしてクレインさんがそれぞれ笑っていた。
この思い出を持つのはもう私しかいないのだけど。例え周りに偽物だと言われてもきっと私はこの写真のように大切にするだろう。
「……みんなが好き、」
この言葉は今の皆にも、勿論私の知る皆にも当てはめている。
まだ1ヶ月ちょいの仲だけど遠慮を知らない皆の態度が本当うれしかった。
私の知る皆とそっくりだけど違う。確かに違う。そしてそんな皆をちゃんと一人の人として見れるようになったのは小さな進歩だと思っていたり。
電源をつけたGHSの待ち受けは初期状態。
もともとはアルヴィンとツーショットの待ち受けだった。初めて購入したときにひとりじゃ変なオプションでもつけられるんじゃないかと恐くてついてきてもらった際撮ったもの。
この初期状態の待ち受けが嫌いで、適当に自称漆黒の翼の彼らを撮ることにした。
無邪気っていいなあ、なんて思いながら。
受信メールもみないままに閉じる。
「………!?」
空気が変わった。そう思うことができた。
ピリピリとした重い空気。嫌な予感がする。漆黒の翼の面々はそんなことも気にせずじゃれ合っていて。
銃杖を構えながらいつでも子供たちを守れるよう近くへと寄り添った。
「三人とも、ここは危険みたいだからいったん町へ戻ろう」
えー、となにも知らない子たちは頬を膨らませているがそんなことを言っている場合ではない。正直ひとりで三人をも守れるか自信もないのだ。
青かった空は分厚い雲に覆われていて、それが逆に不安をかきたてる。
もう一度同じことを言えば渋々とついてきてくれた。
どくどくと心音が落ち着かない、急いでその場から走って離れれば地を蹴る重たい音が大きくなってくるのがわかった。
そして例のギガントモンスターがきた。私たちが今し方居たそこに向かって走ってきた。
私の何倍もの体長、大きな角を生やした馬…ユニコーン?みたことのない大きな魔物は縄張りを荒らされていきり立っているのか私たちめがけて咆哮をとばしてくる。
子供たちは足がすくんでしまったのか魔物を見るだけで走ろうとしない。このままだとまとめてやられてしまうのがオチだろう。
ポケットからホーリーボトルを取り出して三人ともまんべんなくふりかけて銃杖を強く握りしめた。
「走らなきゃ死ぬよ!」
一目散に走り出せ!
(私が注意を引きつける!)
2013.12/10
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