漆黒の翼

[heroine side]

それは小さな少年たちがじゃれ合いながら走っていたことからはじまる。
活発な男の子、洒落っ気な女の子、遅れてか弱そうな男の子。
きゃっきゃと騒ぐ年相応の姿に私たちは誰も気にすることなく、ちまたで噂らしいギガントモンスターの話をしていた。
私はというと本当は遠巻きにでもいいから両親の顔を一目でもいいから見てみたいのだけれど。ギガントモンスターはもしかしたらル・ロンドにまで襲いかかってくるかもしれない。そう思うことにして皆の情報をただただ聞いていた。

「うわっ…!?」

ドンッと腰に衝撃が走り、つけていたポシェットがゆらゆらと揺れ動く。通り過ぎていく少年たちが「ごめんなさーい!」と後ろ手をふりながら走りすぎていった。
なんて元気な子供たちなんだろう。呆気にとられて息を吐くしかない。

「あーっ!!」

レイアだ。皆が私と同じように子供たちに気を取られている、そんなときに大きな声が耳を貫く。そして私のポシェットと小さい姿がより小さくなる子供を交互に指さして近所で被害にあったというあの話をしだしたのだ。
「ひったくり!ちょっとファルス、物すられてない!?」

財布とか財布とか!興奮状態もいいところのレイアの言うように本当に財布が無くなっていてワンテンポ遅れでことの重大さに気づく。
あの財布は私の唯一の私物。誰かからもらったわけでもない、私自身が私自身のために購入した大切なもの。勿論白衣とかの衣服は除外しての話だ。あまり入る物は入ってないが大切な物が詰まっているもの。
正直、ル・ロンドから出られないとか以前の話なのであり、私の姿は電光石火のように皆の元から離れている。目線は消えそうになっている子供にだけあてられた。


気づけば村はずれ、歩幅の差から子供たちとの距離は近づき、次第に一人捕らえることによって財布奪還に成功した。みればこの子たちはエレンピオス人。密航でもしてきたのだろうか。

「こら、なんで人の物をとったりしたの。泥棒だよ」

財布の中身を確認しながらの問いに少年たちはふくれっ面のまま「物はすらなきゃ手に入んないだろ!」と次々に文句を言う。この子たちは親がいないのだという。今の私と一緒。まあ、同士だねなんて言えないけれど。
私は同じ目線で話していた体制から立ち上がって皆に此処で待つよう促した。

「もし逃げるような真似したら……そのときは覚悟してよね」

少年たちに予備のホーリーボトルを持たせた。そして周りにホーリーボトルを振り撒いて少し離れた位置でダークボトルを同じように撒いた。
次々に現れる魔物相手に私はお得意の拳で次々となぎ払い、倒れた奴らから地道にガルドを拾う。効果が切れる頃にはうん千ガルドにまで上っており、これで多少の間は何とかなるだろうと皆の元へと戻る。きらきらとした彼らの目はガルドの山になった皮袋。勿論自分の財布になんか一ガルドも入っていない。
泥やら血やらで汚くなってしまった自分の格好。グローブを取って汚くない素手で彼らにその皮袋ごと手渡せばきゃっきゃと楽しそうな声で中身を確認していた。

「すっげー!すげーよねえちゃん!」

「強いんだね、おねえちゃん!」

たまにはこういうことをするのも悪くはないのかもしれない。
そう思いながら村へ帰ろうと踵を返せば口数の少ない少年が汚い服の裾を引っ張って「どこへいくの、」と見上げられた。

「ん、帰るんだよ。君たちもそれだけあれば当分は過ごせる。あとは知り合いに頼んで君たちを預かってくれる人をさがすくらいしか手伝ってやれないけど」

ドロッセルやガイアスに訳を言えばなんとかしてくれるかもしれない。私はこの場合なにもしてやれない、なんてったって自分も居候の身だし。髪をなでてやるがどうしてかむくれる。

「ねえちゃんはもうオレたち漆黒の翼の仲間だよ!」

「わたしたちにはおねえちゃんさえいれば百人力よ!」

「ぼくたちの、ヒーロー。漆黒の翼のだいこくばしら、だね!」

ちょっと展開についていけない。まず漆黒の翼とはなんだ。百人力って…私一人の力で三人ものこどもを守れるわけがないじゃないか。そしていつの間に私は大黒柱になっていたのだ。
ぐいぐいと引っ張り始めたこの子たちから逃げることもできず、勿論町に戻ることもできずに危険の迫るこの場所でとどまることとなった。



「なあ、ねえちゃん!俺たちに戦いを教えてくれよ!」



お弟子さん〜漆黒の翼〜
(誰でもいいから助けにきて……、)

2013.11/26


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