[heroine side]
潮風が心地いい。という感想を胸に秘めておこう。
実際は荒波に揺れている船の上という心境だ。考えているだけで胃がムカムカしてきそう、私は晴れない空を見上げてはため息をもらした。これも何度目のため息なんだろうか。
あの後すぐに橋は架かった。私たちは彼にチケットをちらつかせながら無事乗船。ジュードはどこかの誰かさんのように飛び乗り乗船はしなかった。流石私である。この状況でなりふり構わず乗り込んでいたら私はきっと本気で失踪するだろう。穴蔵生活万歳だ。
ル・ロンドに着いて思わぬ収穫、ローエンが一人歩いていたのでした。まだ私たちに気づいていない様子の彼をみたエリーゼはうずうずとしていて、私の顔を見てくるので「いってらっしゃい」と言いました、言いましたとも。
それをみてアルヴィンが私に問う。それは予想していた通りで私も当たり前のように返す。
「もう顔もしれちゃってるんだもん、堂々としてないとね」
次の出航予定の時間はまだまだ先。正直こんな島国に逃げ道はないわけで。とりあえずジュードと再会する前に目的を果たしたい。ここに来た理由なんて情報を集めるためではない。完全なる私用だ。
「おはようございますローエン!」
「おや、おはようございますエリーゼさん。珍しい顔ぶれですね」
私もアルヴィンも同じように挨拶を返す。ローエンの他にガイアスとミュゼも共に行動していたらしいけれど今は別行動らしい。曖昧にぼかされたからよく分からない。
いつまでも海をバックに話していても私の目的は果たされないし。町中を歩いていけば左手にロランド、右手にジュードの家。歩く方向は決まっていた。
「あれ、ファルス!アルヴィンにエリーゼも!いやぁこんな偶然ってあるんだね!」
宿屋の中には知り合いがごろっと集まっていた。レイアが気づいたように手を振ってくれて私も同じように手を振った。厨房のほうから割烹着姿のガイアス。口元に食べかすを残したミュゼが顔をだしてこのキャラの濃い面子揃いに何かあったのかと疑問を口にしてしまう。というより訊くより他無かった。
「あたしは最近この辺でギガントモンスターがでるようになったらしいから記事になるかも!って」
「私たちもそのギガントモンスターの話を聞いていたので赴いた訳なのですが」
「……ミュゼが毎度の如く無銭飲食をしてしまってな」
「お手伝いしちゃうことになっちゃったわけなのよね〜」
お手伝いというよりはガイアスの邪魔をしているようにしか見えないのだけれど。それをいったらきっときれいな笑みを向けられるだろう。私は口をつぐんでミュゼから目線をはずした。
ぱちりと視線があう。先には師匠がいた。ソニアさん、レイアのお母さんにしてとても強い人。護身術を教えてくださった人。彼女のおかげで今の自分があるといっても過言ではない。……だけどそれは私の世界の話。
「はじめまして。ファルスといいます」
「おやぁ、礼儀正しい子だね。レイアの友達かい?」
空気を察したのかレイアは笑顔が固まっている。きっと気づいてしまったのだろう、ファルスというジュードの人生を歩んできた少女のお話を。自分じゃない自分と仲良くしていたという思い出を。自分の母ではない同一人物と関わりを持っていたという事実を。
なにも答えない彼女にかわってお辞儀をして顔を上げた私は「はい」と微笑んだ。
「私はソニア。そこにいるじゃじゃ馬娘と仲良くしてちょうだいね。同年代の子の友達なんてジュードくらいしかいなかったから嬉しいだろうよ」
「ちょっ、お母さん!」
顔を赤くして青くして表情が忙しくなったレイアは私の腕をとって外へとでる。あとから皆がぞろぞろとやってきた。
レイアが「ごめん」と意味の分からない言葉を放ったのでそのまま返す。何も謝ることではない。これは私なりのけじめだ。セーブデータの壊れたゲームを続きからやることはできないのだから。初めからまた進めていくしかないのだから。
「これでいいんだよ」
整理整頓
(そして事件が起こるのだった)
2013.11/13
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