船着場

[heroine side]

朝。私は両隣で寝息をたてているふたりを少し恨みながらも起きることにした。あっちむいてごろごろ、こっちむいてごろごろ、変な気分により寝ることも忘れてしまった。いや、忘れていなかったけれど寝れなかった。ただ単に。目がさえてしまった。
洗面台の前に立つ無愛想で青白い顔はため息をもらした。
アタッチメントは寝癖が付いてしまうからつけていない、あるがままの私。ファルス・マティス。

顔を洗ってたるんだ目が少しだけましになった。出航時間までまだ時間はある。少し朝のイル・ファンの散歩を楽しもうじゃないか。


朝といえども朝日が上るわけではなく、この土地の霊勢により少し明るくなったように見えるだけ、気のせいかもしれないがそれだけだ。街灯は年中灯っている、旅行客は昼過ぎまで寝てしまう人もいるんだとか。
目の前に知り合いの後ろ姿を発見して私は後悔する。変装も何もしていないばれるのは時間の問題、運の問題、隠れる場所なんて無かった。私は同じ行動をとっていた彼から目を背けて反対の方向へと歩き出した。こうなったら港で休むことにしよう。

「あーアルヴィン?ごめん朝散歩してたらジュード見つけちゃって。あわてて逃げたから何とかなってるけど見つかったらやばいから港で待機してるよ。エリーゼ起きたら時間までに荷物もってきてね」

我ながら上手な説明だったろう。一息に言った私の言葉、対するアルヴィンの返答はこう。

『………は?』

「だぁかーら言ってんでしょ。出航時間までに荷物もってきてねって」

『いや、そこは理解してっけど……え、なにジュードここにいるわけ?』

居るけど何よ。何がいいたいのか理解できない。ちょっと焦ったような戸惑うようなアルヴィンは『すぐ行く』と残すように電話を切った。いやいやあと一時間くらい待たなきゃなんないけど。朝の冷えた風が襲ってくるからもうちょっと遅めに出てきてほしいのだけど。
エリーゼが風邪を引いたらアルヴィンのせいだ。ドロッセルにがっつり叱られればいい。

少したった頃アルヴィンとエリーゼが港にやってきた。
寝ぼけ眼のエリーゼは小さく欠伸をもらす。

「イル・ファンは相変わらず、なんですね」

「夜域って分かってても朝起きるのつーらーいー!」

うん、確かに馴れていない人にとってはきついかもしれない。アルヴィンから荷物を受け取った私はいそいそアタッチメントをつける。アルヴィンが恐る恐る口を開く。それは唐突な話題で、とんでもなく私に危機が迫っているような、そんな話題だ。

「悪いファルス、そのアタッチメント意味ねえわ」

「…………?」

「いや、実は………、」

昨日ジュードから連絡があったそうだ。
前にニュースで報道されたときの話。やっぱり彼もそのニュースをみていたらしく、変装していた私のことをアルヴィンから聞き出そうと電話したんだとか。そのときにアルヴィンが口を滑らせてファルスと言ったらしい。
その話をアルヴィンから聞いてアタッチメントを外した。これは完全意味がないね。
もともとパスカルという偽名のことをアルヴィンやエリーゼには言ってなかった私も悪いわけだ。

「こうなると…もう堂々としているしかないね」

船に橋が架かるのはあと数分。架かり次第乗船すればとりあえずこの場は安心だろう。
髪の毛を整えてピンをさす。服装こそは取り替えることなかったがこれでパスカルという認識はならないだろう。


「……居た、…ファルス!」

振り向くとそこには白衣の少年がいる。側にルドガーたちはいない。私はチケット片手に、反対の手でジュードに向けて手を振った。久しぶりの意味とさよならの意味。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
私はただジュードを驚かすついでに世界の状況をこの目で見てみたかっただけなのに。
一人旅を満喫する気満々だったのに。

結果はおかしい方向へと進む。
アルヴィンやエリーゼに出会うし、まさかのジュードがイル・ファンに向かっていたし。メールをみていた日時からしてもう居なくなっていると思えば居るし。



「こういうすれ違いが敵を生むのかな」



まるでボス戦のような再会
(私が悪であなたが正義と例えようか)

2013.10/28


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