声を聞いて

[heroine side]

部屋代をケチるためトリプルの一室を借りることになる。エリーゼには悪いが一日我慢していただきたい。部屋でGHSの充電をしながら電源を入れた。ジュードからのメール多数、これをみているとまるでイバルを思い出すのです。
とはいえ、内容は心配メールばっかり。私は真ん中のベッドを陣取り布団の中でぬくぬく暖まりながらメールを一通一通開封した。私が横穴で雨宿りしたあの日から連絡をよこさないのを心配してしまったのだろう。心配性というのも如何なものか。
さて、全て解読。どう返信するべきか悩んでいたとき思い悩んでいた彼から電話がかかった。

『もしもし、ファルス?大丈夫?』

「大丈夫大丈夫。何度もメールありがとう。心配かけちゃっててごめんなさい」

久しぶりに私に向けての声である。パスカルとかいう偽名の時のあの初対面というぎこちないしゃべり方ではない、耳に慣れた優しい声。なんだかとても安心した。
ホテルを挟んだ向こう側にあなたが居る。会うことはできない、これはもともと一人旅の予定でもともと世界の状況を自分の目で確認するためのものだったのだ。
それがなぜか事件事件の連発。なんかのRPGみたいに仲間も加入、予想通りには中々進まなかった。世界各地に仲間が飛び散ってしまってもこれならばまた合流できるかもしれない。

「ジュード、今どこにいるの?」

『あれ…イル・ファンに居るって言わなかったっけ?』

「ああ、ごめん。そうじゃなくてイル・ファンのどこにいるのかなって。外にいるんだよね?」

GHSから聞こえる風の音。ジュードは外から電話をかけていた。ホテルで部屋は取っているはずなのに。ルドガーに聞かれて困るような話しでもってするつもりだったのだろうか。なんて片隅に彼の返答を待った。

『……僕がはじめてミラと会った場所だよ』

「ん、…そっか。風邪引かないようにね」

私もそこに向かってしまったように彼にとっても思い入れのある場所、出会いもきっと似たり寄ったりだったのだろう。
多分ミラのことを考えていたのだ、私の知らないミラのことを。ミラの偽物も懲りたようだが他にもミラを名乗る人が居るかもしれない。

『ねえファルスはこの世界のミラのこと…知ってるんだっけ?』

「ミラが居なくなった、ってことはミュゼから聞いたことあるけど…それだけ」

『うん、ならどう思う?ミラとミラさん、僕とファルスみたいに別人という枠には』

「………分かってるでしょ。例え状況は違えどミラはミラでしかない、私自身本当にジュードと違うという確証もないんだから」

そう言い終わると少しの間沈黙がつづいた。さっきジュードと再会してからというもののミラミラミラ、ミラ依存症もいいところである。数日ぶりの会話だというのにミラのことばかり。私だって自分の世界のミラとの仲は良いがここまでミラと言い続けるほどではない。会えないからこそ想ってしまうのは当然かもしれないけれど私だって会いたい人に会うことすら叶わないのだ。
ある意味同一人物でしょうに、少しはこっちの気もしってほしい。

『僕、欲張りかな。もう大切な人には居なくなってほしいんだ。……離れないで側にいてほしい』

「でも。大切な人を守るためには何かを捨てなきゃいけないときもあるよね、そんなときでも側にいてほしいっていうのは子供の我が儘だよ。…世の中いつだって選択肢が散らばれているんだ……そういうときは本人の意見を尊重してほしい」

選択肢とは手に入れるケースと切り捨てるケースがある。今この時間、この会話にだってきっと何パターンの選択肢が散りばめられていてその中から選ばれた台詞で会話が成り立ってしまっているんだ。
一言で進む未来は変わる。私たちが生まれる前から続いていてこれからも続くのだ。



「でも、小さい欲張りくらいは悪くないんじゃないかな」



時間は大切に
(この時間を私の時間にあててもらっているように)

2013.10/17


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