[heroine side]
ヘリオボーグに向かえば窓から煙がもれていた。
見上げる人たちの中をかき分けてエレベーターで上へ上がる。金属が焦げたような臭いに思わず手のひらで口を押さえた。
研究室の中に入ればバランさんが何とかしてくれと耳打ちしてくる。
何とかしてといわれても。背中をずいずいと押された私は兎さんのような目をしたマキさんに治癒術を施す。綺麗な女性が目を腫らすのは失恋したときだけでいいんだよ、…………ってアルヴィンに訊いたことがあった気がする。
「うう…せんせ、ごめんなさい……」
彼女の後ろに実験に使われただろう装置が悲鳴を上げていた。確かこの部屋に保存していたのは微精霊程度の化石だったはず。……まさか、と彼女をよけて装置を隅から見る。
前に研究に息詰まっていた時、資金面でも困っていた私は同じ属性の微精霊の化石をかき集めれば大精霊クラスにならないかなとぼやいたことがあった。
だけど所詮は寄せ集め、一つの形におさまるわけがなかった。逆に個々が暴走しあって危険極まりないことは自分が安全性を確保した上で試した結果だったのだ。
「なんでこんな……、」
「先生の発想が素晴らしくて…その、どうしても諦めきれなかったんです!」
ああ、そういえばこういう人だった。
私の迂闊な発言に興味を引かれたマキさんは相も変わらずひとりでに実験を行って今に至るわけだろう。
バランさんも怒りを通り越してあきれる始末だ。
「マキさん、前にも言ったけれど一人で実験したらダメだよ。もしマキさんがひとりでに実験でもして失敗したらどうするの。誰も気づかなかったらマキさんが危ない目にあうかもしれないんだから」
先生……と俯く彼女への説教タイムはもうやめにするべきだろう。それより弾け飛んだ化石の破片や装置の外れたネジやガラスを片づけることから始めなくちゃ。
皆に指示をして私も拾い始める。
「ファルス、GHS」
鳴ってるよと指差されたGHSを取り出した。相手はずっと連絡を待っていたレイア本人で。私はこの場を後にして廊下で通話にでる。つい声を荒げてしまったが私の予想に反してレイアはけろっとしていた。
待ち合わせをスルーしてトリグラフに居るというレイアは私とどこかで落ち合いたいらしい。
それなら、と私の今後の予定をあわせてみよう。
「私これからカラハ・シャールに行きたいと思ってるんだ。マクスバードの宿屋に一室とってあるんだけどそこで待っていてくれたら一緒に行こう」
『ホント、いいの?』
いいよ。って笑えばよかったーって安堵する声。
その後話を付けて私は電話を切る。落ち着いてきた現場を確認してバランさんにクレインさんに会うことを伝えた私はコートかけに白衣を掛けてそのままヘリオボーグを後にした。
あ、トリグラフにいるんだったらそこで待っててもらえばよかったかもしれないなんて今更な事を考えながらホーリーボトルを振り撒いて走る。あまり人を待たせるのは好きじゃないんだ。
マクスバードについたのは私のおなかが音を鳴らせている頃だった。こういうのちょっと恥ずかしい。去年だったら私のおなかの音よりミラやレイアの方が同姓としてすごい音を立てていたような気がするけれど。今は一人、皆元気にしてるかなあ。
おなかの音一つで感傷に浸れるほど私はひとりぼっちではなかった気がする。こないだアルヴィンがサクラやってくれって頼み込んできたし、エリーゼはクレインさんのところへ行けば会わせてくれるし。今のローエンは中々会えた試しはないけどその分メールのやりとりはする方で。あの人、意外なくらい早打ちなんだよね。最初すぐに返ってくるからビックリしたよ。
だけどこういうこと考えるのはフラグだってなんとなく直感が言っている。
意を決して私がとっていた部屋のドアノブを回す。
「レイア、お待たせ、」
心拍数上昇中
(中にいた皆が一斉に私を見る)
2013.8/18
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