気づかぬ再会

[jude side]

結局運休が続いて僕がイル・ファンに着いたのはあのニュースが流れてから二日後だった。その間に借金返済や分史世界を壊したりとルドガーたちの手伝いをして過ごしていたのだけれど、彼女から返信が中々返ってこないのが不安で全体的に身にならない。

「私は大丈夫だから心配しないで」

………、どういう意味だろう。そういうメールはフラグじゃないんだろうか。
もしかして家で何かあったとか。バランさんに何か酷いことでもされているんじゃないか。色々かんがえれば堂々巡り。船はもう出発してしまったのだから帰るにしてもそれは明日。
はやく資料を持ち帰って君の顔を見たい。
おかえりってキッチンの奥から顔をだすファルスの顔がふんわりと浮かんだ。


「うわー、ここがイル・ファン?きれー!」

真っ先に船から降りたエルは海停を抜ける。「転ぶなよ!」とルドガーが追いかけるのを僕とミラさんはみていた。
ミラ。そう、ミラとの初めて出会った場所。僕の人生を変えてしまう出来事があった場所。医学校を卒業してからも何度となくここに来ているからそこまで懐かしいと感じることもないけど、それでもここは初心を取り戻す気がして。

足は自然と始まりの場所へと向かっていた。
ルドガーたちはこの街のことを知らないからと僕の後ろをついてくる。
そこには先客がいた。手入れの施されていない黒髪にメガネをかけた同い年くらいの女の子。思い詰めたような顔で水面をみている、そんな様子に割りこむようなことはしたくないので向きを変えてラフォート研究所へと歩を進めた。

「ここからは別行動にしよう」

研究所の中なんてみていてもエルが飽きるだけだろうという意見に皆同意してくれて。エルは観光する気満々、ルドガーの腕をとって走り出した。そんな焦んなくったって街は逃げたりしないのに。

「ホテルはとっておくから後で連絡よこしてくれ」

ルドガーの去り際の言葉にうんと声を張って返して中へともどる。資料はナヤル博士が持っていると研究者さんは言っていた。なんだか今面白いものを作っているらしく、その人が代わりに持ってきてくださると言ってくれた。僕は資料室を借りて他の文献を目にする。

それからどれくらいたったんだろう。
本を四冊丸々読み終えた頃、先ほどの男性がやってきた。その手の中の資料を受け取って僕はこの場を後にしようと立ち上がれば窓の向こう側をみながら小さくぼやくその人。

「はあ…ああいうの迷惑きわまりないって言うんだよな…うるさくてたまったもんじゃないよ」

僕も同じように窓から外を眺めてみる。そこには見知った人がいて。まさかルドガーたちがなにかやらかしたのだろうか、と内心焦ったが様子がおかしい。自分で言うのもなんだけど視力はかなりいい方だから分かる。ルドガーは笑っていて、となりには先ほどの眼鏡の少女が呆れ顔でそんなルドガーをみていた。

「ああ、そうだ。君…ジュードくん、だっけ。ナヤル博士の資料の件なんだけど………、」


研究所の扉が開くと騒音が耳に響く。
これは確かに研究の邪魔だ。周りを一通りみて静かに息を吐く。目の前の騒がしい人たちをみないことにしてルドガーたちに声をかけた。

「………こんな所で何やってるの?」

答えはなく苦笑いだけが返ってくる。うん、とりあえずルドガーたちから何かをしたというわけではないらしい。そこでようやく彼女たちに目を向けた。完全に初対面ではあるが常識に欠けているその部分を注意位するのは悪くないだろう。

「すみませんが、扉の前で騒がれるのは迷惑です。騒ぐならもっと別の場所でお願いします」

「こいつ、誰に物言ってんだ!」

ぶんっと腕を振り上げたようだがこちらとしても戦闘経験は豊富なわけで。ゆっくりに見えたその動きを後ろにまわって押さえつけた。ついでに一発。拳でなく書類で殴ったのはこれでも僕なりの配慮である。
そして驚きを隠せないと言った金髪の女性はおかしいことを言いだしたのだった。



「ちょっと待ちな!私は精霊の主、マクスウェル様だよ!?」



ごめん、今一瞬だけ耳が悪くなったかもしれない
(………うん?)

2013.10/15


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