探し物求めて数千歩

[heroine side]

向こうからやってきてくれるとはなんたる誤算。手鏡で自分の身なりすら確認できなかった。まあいいや、とりあえず初対面らしくいこう。
エルに指さされ、私は首を傾げながらも応対した。

「テレビの人?何のはなしー?」

「フネの上でたたかったー!っていうニュースやってた!」

エルもみていたのか。と思いつつ私は足下に目をやる。ルドガー、エル、ミラ…ルルがいない。頼みの綱だったのに…どうやらもろい綱だったよう。
………にしても話は変わるが、あの偽物マクスウェル様は本物をみたことがないのだろうか。あんなに忠実…でもないけれど凸凹パーティーを引き連れているのだ。これが風の噂だけでつくられたのなら出来自体は悪くないのかもしれない。

「……なによ?」

「ううん、何でもないよー。ただ、あたし今困っててさー誰か手伝ってくれる人を捜してるんだよね」

「それならルドガーがやってくれるよ!ね、ルドガー!」

「ああ、俺でよかったら」

ミラをみていたら睨まれた。初対面には厳しいな、……まあ流れはいい方へと進んでいってるようで。ルドガーたちにムーンライトというバーボンを探していることを伝えた。あとでアルヴィンたちにも探してもらえるよう促すとして、私達はサンサーラ商館へ向かう。

実際私が一人で行動していたときに一度向かったのだがその時にムーンライトを販売している人はみかけなかった。もしかしたら問屋さんにでも出くわすかもしれないと淡い期待を持っていたが世の中はそう上手にまわらないようで。疲れをみせたエルにお菓子を買ってあげるのがせいぜいのお買い物。

「うーん…やっぱ売ってないのかー」

「……それ、そんなに必要なの?何に使うのよ」

…………………。
ミラにそう言われて私はどう説明するかに頭を悩ませる。だけどそういえば私たちは初対面、そいでお互いに自己紹介すらもしていない状態、無理に気にすることもない。というわけで私は先ほどの経緯を思い出した。

「まあ、手っ取り早く言っちゃえばあの精霊の主と言われるマクスウェル様とぶつかっちゃってその人の持ってたお酒を割っちゃったわけなんだよね。で、弁償するために今こうやって街中を駆けめぐってるんだー」

考えるような仕草でルドガーが「その人は彼女に似ているのか?」とミラを指して言う。勿論違うので私は首を左右に振った。
ミラがミラに会えないことは高確率なのだ。
分史世界のルルと正史世界のルルがお互いを威嚇しあって消えてしまうようなその瞬間しか居られないはず。そして先に正史世界に足を踏み入れたものを本物とするならば今私が目にしているミラは本物でやっぱり自称マクスウェルと名乗る彼女は偽物で。他の分史世界から来ているのだとすれば私とぶつかることはあれど、その後の口論なんてできるはずもないのだから。

「ミラに似てないミラがいるってこと?」

「残念ながらエルの答えはハズレよ。つまりあんたが会ったマクスウェル様ってのはもとからマクスウェルなんかじゃなかったってことね」

うん、そのとおり。まさか全然似てもいない人からマクスウェルの名前を名乗られるとは思っていなかったから笑ってしまったよ、と密かに心の中で呟きそれに答えるようにルドガーが「そんなにひどかったのか……?」と明らか私の目を見て言った。気づけばルドガーとリンク状態。自分の左腕を指さし私も左腕を見やればそこには例の私、思いを伝えるんだ環。効果が切れるまで外せないそれでばれてしまったらしい。



「と、とにかく!にせもんだろーがなんだろーがお酒で解決できるんならそれでかまいやしないもんね!よし、次は宿屋にでもいこー」



口の堅い人
(……随分といい笑顔をみせてくれるわね)

2013.10/12


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