気持ちの変化

[heroine side]

その日はお言葉に甘えて一泊させてもらった。広いジャグジーで女子三人、つきることない会話を延々と。
ドロッセルはさん付けが嫌いらしく私も呼び捨てで呼ぶことになった。そういえばクレインさんにも似たようなことを言われた気がする。堅苦しいのは苦手だから、と。あの時は私も変に頑固だったからさん付けで押し通してしまったっけ。


「さて、そろそろ寝ないと」

客室として当てられた私の今日の寝床にエリーゼは遊びに来てくれていた。というより屋敷の中が広くて右も左も分からない私を見かねて助けてくれたのだ。
それから少しお話をした。
エリーゼからしてみれば今日みたいなドッキリにでも思えちゃいそうな展開は嫌なんだそう。前もって連絡してくださいとのこと。
そういう主張ができるようになっただけでも成長が感じられる。
子供の成長ははやいなと、実感してしまった。
約束こそはできないがなるべくなら連絡すると心に決め、私はフカフカとしたいい香りのするベッドに顔を押しつけてさっきの言葉を言う。

「ファルスは明日にでも帰っちゃうんですか?」

「うーん…私、もっとこの世界のこと知りたいと思ってるんだ。せめて私が印象に残ってる場所には行きたいと思ってる」

「ここには…、あ。……そうですよね」

クレインさんのお墓参り。なんて言葉に表さなくても伝わったようで。ちょっとばかし落ち込んでしまった彼女をベッドまで連れて同じ布団に潜り込んだ。シャンプーの香りがする。抱き枕のようにすっぽりと埋まるエリーゼの頭をなでながら私は次の目的地を考えた。

「えっと…小遣い稼ぎもしたいし次は陸路でイル・ファンかな」

「イル・ファンですか!?ちょっと遠すぎです!船の方が絶対安心ですよ?」

「あはは……、」

正直所持金が痛いほど飛んでいくのだ。GHSでのクレジット払いだとジュードの負担が嵩んでいくし、なるべくここいらでは珍しい現金での行動をとっているから手数料分が痛手となっている……なんてエリーゼには言うべきではない、か。心配してくれているエリーゼに「歩きたい気分なんだー」と思ってもいないことを述べ、私の腕から解放してあげた。とてて、とベッドから降りて二三歩歩いて振り向いたエリーゼは首を傾げてこう言った。

「あ…ファルス。そういえばジュードと仲良しになれましたか?」

「ん…、なんで?」

「この世界のことを知りたがるってことは今のファルスはこの世界のことをだいっきらいではないのだと思います。嫌いなら知ろうとしないはず。……まあこれはわたしだったらの場合なんですけど」

きっかけはジュードだったんじゃないかと伝えるエリーゼはそのままおやすみなさいと後ろ手にドアを閉めた。
離れていく足音に私はジュードのことを考える。
私がアルヴィンとニュース沙汰になったのが三日前。道中歩きの道しか選べなかった状況とはいえアルヴィンのほうに支障はなかったのか今更ながら不安になってくる。そしてその時イル・ファンに向かおうとしていたジュードはどうしているんだろう。きっと用とはラフィート研究所だろう。なにかしらの資料でも取りに行くところだったんじゃないだろうか。

(イル・ファンですれ違いとかあったら逃げれなさそう)

ほとんど変装の意味もなくなっているようで、そうじゃないような……意味もなくなってきているような。いや、そういうこと考えるのはやめとこう。
次にエリーゼがいった「きっかけはジュード」について考える。
まあ、私はある意味で家に監禁状態もいいところだったわけだし?
……たまに脱走はしたけれど。

ジュードはお人好しがすぎるのだ。だから彼の言葉に偽りだと疑うことすらできなくなってしまう。信用したくなかった人間を一番安心して頼りたくなってしまったのは家族という暖かい言葉をくれたからかもしれないし。私のこの気持ちの変化がこの一人旅の意味もを変えた。
もともと家出もといの旅だったのに今はこの世界の実態を少しでも理解しようとしているなんて。この様子じゃいつ源霊匣の研究につきあい始めるかも分からないな、と一人笑い。

「もう、寝よっと」


私はいま此処にいる
(この世界に刻みたい、私の居た証を)

2013.10/1


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