雨の日のこと

[heroine side]

夜になり何の因果か雨も降り始め、私たち二人は狭い穴蔵の中で一泊することになった。狭くて寒い。でも火をたいてしまったら酸欠になること間違いなし。現在Tシャツ一枚の私はジュードの家に置いてきた白衣やベストが恋しくなった。
私は小さなポケットからお菓子を取り出す。朝ご飯以来の食べ物である。が、船の一件、迷惑をかけたのも私だろう。武器なんて使い慣れていないもので戦うからかなりの負担を彼に与えたはずだ。
ということでヘソクリをアルヴィンにあげて自分は狭い壁に体を預けて目を閉じた。

「ファルスは食わねえの?」

袋の開く音がする。適当にいらないと答えて眠った。すぐに眠れたのは今日のアルヴィンとの出会いから疲れがでてきたのかもしれない。なんて他人のせいにしているけれど。

目が覚めたら真っ暗で人肌を感じた。腕を抱くように寝ていたのだろうか、十中八九アルヴィンの腕だと思うものから自分の絡めた腕を外す。彼のスーツが羽織らされていて私は彼の優しさを実感する。こういうところは全世界共通かもしれないな。スーツを彼にかけ直して壁伝いに穴蔵の外を確認する。まだ雨はやまない。
中に戻りとりあえずGHSをゆっくり開いた。電源をOFFにしていたそれをつければメールなど受信しないはずのそれから6件ものメール、2回コールまで届いていた。名前はジュード、ジュードジュード………予想はしていたが一日目でこれはすごいな。

メールの内容は私を案じるものだった。
そしてジュードがイル・ファンへ向かっているということ。夕食はいらないって話らしい……ということはまだ私の家出には気づいていないようだ。
時間はもう遅いが次いつ連絡できるかわかんないので返信をして、また電源を落とした。

「…さぶっ、」

ぶるっと身震い、これで風邪引いたとか洒落になんないんだけど。アルヴィンにかけたスーツをぶんどりたくなってくる。くるるるるとお腹の音まで盛大に鳴り出す始末。あー…もう一回寝よう。半袖からだしていた腕で自分を抱くようにして目をつぶった、はやく雨が上がりますようにと願いながら。


「おはよ……、」

私が起きたのは穴蔵の入り口から光が漏れだしていた頃。外へと出ればアルヴィンが簡単な朝食を準備してくれていた。スーツを肩に掛けたまま彼に近づけばおはようと返される。
地面が塗れているだけで太陽さんが見えていた陽気な朝。シワが残ってしまったスーツ、……これ商談で響かないかなと不安になってしまったそれを何も言わずにひょいと奪われた。こんなの私の知ってるアルヴィンじゃない!


「……いづっ」

ごつっと鈍い痛みがいきなり表れた。地味にいたい、鈍痛に気づけばそこにアルヴィンがいた。なぜか私はでたはずの穴蔵の中にいて。よく分からない状況に頭を悩ませてしまう。

「もう朝なんですけどー目は覚めましたかおじょーさん」

腕を放せと言われた、また腕にひっついてしまっていたようで。あわてて離して今まで見ていたのが夢だと気づく。隣にいるのはしわくちゃになったスーツを見てため息をつくアルヴィン。そうだ、こうでなくちゃ。
と、こうなるとどこからが夢なのか分からなくなってしまった。GHSの電源を入れて、付くまでの合間にうーんと伸びをした。流石に堅いところで寝たら骨が鳴る。
付いたそれをみる限りジュードへの返信はしてあったようだからそれ以降、つまりあの綺麗なアルヴィンあたりが夢だったのだ。

しわくちゃなスーツを彼の手からかっさらい外へでる。夢で見たような明るい空。腕にかけたそれを上に向けて放り投げて銃杖で狙いを定める。

(威力さえ調整できれば……!)

「ちょっ、おたく何してくれちゃって!」

マナを銃杖を通して水に変換。次に地面に向けて炎をだす。最後に弱い風を当てていった。
十数分の行為を終わらせてピシッとのびたスーツを返す。これで商談で嫌な顔はされないだろう。彼はそれを受けとるかわりに小さな包みを私の手のひらにおいた。



「それでカラハ・シャールまで保たせろよ」



甘い甘いピンクのキャンディー
(ほんのり甘いピーチ味)

2013.9/29


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