四人とも足止め

[jude side]

昨日はよく眠れた。漸くファルスと絆を結んだから。彼女の顔は口じゃ表せないくらいぐちゃぐちゃで。まるで大きな妹を手に入れた気分でなでてあげた。
泣き顔もちょっと可愛い。なんて家族に持つべきじゃない感情を隠してその日は終わる。

いつもと変わらない今日、だけど彼女は僕のことを「ジュード」と呼んでくれる。ちょっとした、確かな変化だ。彼女はきっと手にしたばかりの合い鍵を使って買い物にでも出かけるんだろう、それも仕方ない。彼女の行動を制限なんて借金しているわけでもないんだから。

「いってきます」

いってらっしゃいというファルスの声を背中に僕はドアを閉めた。


研究をしていたらどうしてもラフィート研究所に置いてある資料が必要になってしまった。バランさんやマキさんをパシリに使うわけにもいかないわけで。イル・ファンへ向かわなければいけなくなった僕はトリグラフからヘリオボーグ行きの列車へ乗ろうとしたが、どうやらまだ出発前のようだ。時間が余ってしまう。どうしようかなと考えたとき見知った顔が駅の入り口に居た。

「ルドガーにエル。こんにちは」

「こんにちはジュード!お仕事?」

「うん、これからイル・ファンに向かう予定なんだ」

わたしたちもイル・ファン行けるようになったから行くんだ!とエルが楽しそうにリュックを揺らしている。ルドガーが駅内に設置されているテレビをみて顔色をかえた。そしてその内容に驚かされる。

『サマンガン海停行きの旅客船において巨大な魔物に襲われてしまった事件で、男性と女性が勇敢にも戦ってくれたらしく30分遅れとなりましたが無事に到着した模様です』

現場の画面に変わるとそこにはアルヴィンが映っていた。アルヴィンの隣には多分もう一人の女性、という人だろう黒髪眼鏡の女の子が歩いていた。黒髪という点でファルスのことが脳裏によぎるが彼女は眼も悪くないしそもそもあんな揃えた前髪ではない。チャームポイントのピンも身につけていない様子から他人のそら似だろうと思うことにした。

でも一応念のためと、メールだけは送っておこう。
イル・ファンに行くことも言ってないし。簡潔なメールにすぐ返事が返ってくることはなかった。

「アルヴィンのトクベツな人かな?」

「いや、友人じゃないか?そこまで親密には見えないんだけどな……、」

エルとルドガーは好きに言いたい放題。
全くこの二人と来たら相変わらずのようだ。駅内のアナウンスでもう少しで出発するという放送が鳴る。そろそろ乗ろうかな、と踵を返せば遠くの方から般若の面でもつけたような顔をしたミラさんがこっちに向かってきていた。これはいやな予感しかしない。

「じゃ、じゃあ僕は先行くから……、」

離れたところでミラさんの怒りに満ちた声が聞こえてくる。この家族は仲がいいのか悪いのか些か疑問に思ってしまうところがあるよね。大分。


ヘリオボーグへ着いたけれどやっぱり先の件があってか運行していなかった。折角ヘリオボーグまで来たのだからとりあえず今日はここに泊まることにしよう。GHSを開くが返信が返ってくる様子は見られない。バッグの中にでも閉まっているのかもしれないからと特に気にすることもなかった僕は時間を持て余したのでルドガーたちと行動をともにすることになる。

「そういえばファルスとはどうなんだ?」

「どう、って?」

「あんたたち初対面の時から仲悪かったでしょ。一緒の家に住むって聞いたときは家が吹っ飛ぶんじゃないかってエルと話していたのよ」

それはいったいどんな状況だろう。と思いに思ったが確かにファルスはこっちに来てから僕に対する嫌悪感を一切見せることはなかった。自分の世界だとあれだけ文句垂れていた彼女がだ。
メールが返ってこない。嫌な予感がする。
僕はGHSを耳に当てた。



『おかけになった電話番号は───…………、』



身に過ぎる不安
(はやく繋がってほしいのにっ……!)

2013.9/28


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