汽笛を鳴らせ、進め僕

[Jude side]

レイアが意を決して電話をかける。4コールで通話中に変わったその向こう側の音ががやがやとしていて声が聞き取りにくい。どうやら誰かが謝っているよう。
………なんだか聞き覚えがある気がする。

『もしもし、レイア?どこいってたのさ!』

「ご、ごめん……えっと、トリグラフに居ちゃったかなー」

『トリグラフ!?取材は?』

大きな声が離れている僕にまで届く。助けてほしそうなレイアの目。だけど取材の話なんだから横やりは入れられない。
そういえば電話の奥のがやがやとした声の主はマキさんやバランさん、研究所の人達だ。道理で聞き覚えがあるはずだよ。

「…………、」

どうやらいやな予感が当たりそうだ。
いつもの癖でさっきのレイアのGHSの画面を思い出す。ミラさんは女の子なんだから僕に似ているなんて言うのは悪いんじゃないと言っていたけれど。さっきすれ違った白衣姿の女の子がこの世界のレイアの幼なじみだったとするなら、きっとそれは僕の見解が正しいのだ。

しどろもどろに回答するレイアにルドガーが何かメモを見せている。どうにかしてファルスと接触を図りたいらしい。たしかにルドガーが見なければ時歪の因子がどうかも分からないのだから。
頷いたレイアが苦笑しながら会えないか交渉をしている。意外とあっさりOKを貰えたようで仕事モードと同じように頭を思いっきり下げていた。

「これでとりあえずはどうにかなりそう…ですね」

「もー、エリーゼはしんぱいしすぎ!エルはすぐにあえるってわかっていたもんっ」

腕を組んで自慢げにいうエル。そんな彼女をじと目で見つめるエリーゼとティポは本当かどうかつっこんでいた。
エルはその視線に耐えきれなかったのかルドガーの背中に隠れる。うん、いつものこと。


「えっとね、マクスバードの宿屋の一室借りているらしいんだ。だからそこで待っててって」

GHSを閉じて言うレイアは少し落ち込んでいた。分史世界といえどこんな風に心配されるのにはなれていないんだろう。そして心配していた張本人の命を手を下さないにしても奪ってしまうことになるんだ。
レイアが難しい顔をするのも仕方ない気がする。それはきっとレイアが心の底から他人を思いやれる優しい人だからもてる感情。
僕なら自分を心配してくれる知らない人に対してどんな感情をもてるのだろうか。


車内はいろんな客で賑わっていた。自由席とはいえ二人席に一人で座るお客さんが多くてろくに座れる場所がない。空いている席にとりあえずエリーゼとエルを座らせて僕たちはその周りに立っていた。

「私は別に立っていられます…よ?」

座ることによって子供扱いされていると思っているらしいエリーゼが少しふてくされている。隣のエルはというと膝にのせたルルとじゃれあっていた。

「ボクたちよりローエンが座るべきだよねー!」

「ほっほっほ、まだまだジジイを侮ってはなりませんよエリーゼさん」

「それにエリーゼがエルのそばにいるんなら何かあったときすぐに守れるだろ?」

子供の相手が上手なローエンとアルヴィンはエリーゼをうまく丸め込む。言葉巧みとはこういう人たちのためのことなんだろうな。
なれない汽車に興味深そうなミラさん。端から見たら初めて汽車に乗った子供のようだ。確かに僕も未だ汽車の揺れにはなれない。船よりはマシだしワイバーンなんかとは比べものにならないくらい静かな揺れだが一定間隔でガタンと揺れるのもどうなのだろうか。

「ジュード。まだマクスバードには着かないの?」

「えっと…あと10分もあれば着きそうだけど……ミラさん、大丈夫?」

大丈夫だと言い張るミラさんは真っ青な顔を下に向けていた。応急処置にもならないけど背中をさすってあげる。
僕の名前を呼んだルドガーは手を振ってこっちだとアピールする。空いている席を見つけたらしい。
窓際の席にミラさんを座らせて外の空気を吸わせる。そわそわしているルドガーに「大丈夫だから側にいてあげて」とその場を任せた僕は自動販売機でミラさんへの冷たい飲み物を選んだ。



「ルドガーも大概心配性だな」



移り変わる景色と共に
(マクスバードまで後少し、)

2013.8/17


- 3 -

[*前] | [次#]

- back -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -