最悪は続く

[heroine side]

アルヴィンに見つかってしまった私は大人しく彼の部屋へと着いていった。最悪の極みだ。
アルヴィンはベッドの上へどさりと座りこむ。アタッチメントを返してもらった私は嫌な顔を露わにしながら彼とは離れたところで椅子に腰を下ろした。

「……で?」

「でって何」

「外出許可貰えたのかって訊いてるわけ。ジュードのやつ中々強情なところもあるだろ?」

「………」

なんだ、私がジュードから無許可で外出してると思われたわけね。まあ、前科もあるし知り合いに出くわすしなんだかんだで巻き込まれたし、今回も同じことになりそう。嫌な話だ。
サイドテーブルに肘をつきうなだれた私はぶつぶつとぼやくように返答する。

「昨日合い鍵もらった。けどこんなところにいるって話、一々ジュードに言わないでよ?」

「へぇ…ジュードねえ。おたくら結構いい感じなんじゃねえの」

「か、家族になったのよ。どっちが兄なのか姉なのか分かんないけど」

なんだつまんね、とアルヴィンは興醒めしてベッドの上で寝転がる。そんなアルヴィンはこれからカラハ・シャールで商談があるんだとか。うわぁ…この流れはいやな予感がするぞ。と心の片隅におきながら。
そんなときの話である。
ドンッと鈍い衝撃が船を襲い、私は椅子から転げ落ちた。

「な、なに!?」

顔を見合わせた私たちは廊下にでる。慌てふためく客が濁流のように走っていた。その中で青ざめた顔で客を誘導している船員を見つけて話を訊くと答えはこうである。

「甲板のほうから魔物が!」


甲板に着くとそこには巨大なタコのような魔物がいて。アルヴィンとたこ焼きパーティーでもするかと言い合った。勿論冗談に決まっているのだけど。
この色、この大きさ、この動き…何かでみた特徴。えっと…そうだ、クラーケンという魔物だ。古文書を読んだときに見た。……が、クラーケンが出現しているだなんてそれはもう遥か昔の話。ここ最近に出現した話はリーゼ・マクシアでもエレンピオスでも聞いたことはない。と、思う。ここ一ヶ月の間で手に入れた情報なんてこれっぽっちしかないが、クエストを確認するもギガントモンスターの退治くらいしか依頼されていなかったし海が魔物によって荒れているなんてもってのほかだった。

「とにかく水没だけは勘弁な!」

「私も水死体になるのだけはいやだよ!」

私は珍しく武器を使用中。銃杖といわれるもの、霊力野<ゲート>から練成されたマナを銃弾に変えて敵を攻撃することができる。遠距離攻撃は中々馴れないものがあるがこれも役作りの一貫。
精霊術は正直得意どころか苦手に近いんだけどこの武器があるおかげでなんとかなりそうだ。
と思っていたのもつかの間、どうやら銃による攻撃はあまり効かないらしい。アルヴィンの攻撃に苦しむ様子からして斬撃が弱点だろうか。クラーケンはアルヴィンに向かって集中攻撃を食らわす。触手で突くように攻撃したそれを私が銃ではじき落とす、うん、連繋プレイだね!

「ちょっ、おたくなんでいつもみたいに戦わねえんだよ!」

「いやだって、ほら…役作り?」

クラーケンは唸るように力を溜めた。解き放たれた口から水流をぶちまけるそれの勢いはまるで渦のよう。アイストルネードを私めがけて放たれる。勢いのある水流に押し負け、挙げ句の果てに水まで飲んでしまった私は息を整えるのに精一杯。
やっぱりダメだとその場に銃杖を置いた私はアルヴィンとリンクする。まっすぐクラーケンの胴体めがけて拳を振り上げた。

「日柳!」

振り下ろした脚で攻撃を決めるとクラーケンの動きは鈍くなった。どうやら光が弱点のよう。アルヴィンが閃空衝烈破を繰り出し、もち上がったそれを斜め下の方へ向けて突く。
ひっくり返ったクラーケンに向けた最後の時。
アルヴィンの振り上げた剣の勢いに乗っていつもの高さの倍に跳躍した私はその勢いのままに跳び蹴りを放った。



「「飛天翔星駆!」」



出会い頭のコンビネーション
(浸水しないのが幸いってやつね……、)

2013.9/26


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