前途多難な船旅

[heroine side]

マクスバードから船に乗る。行き先はサマンガン海停。約一ヶ月前のことを思いだす。あの時はいきなりの話についていけなくて泣いちゃったっけ。なんて思い出しながら。

どーも。本日より一人旅を始めちゃいましたファルス・マティスだよー。
勿論その事実を知るのはこの出始めた太陽さんが沈んだ頃になるんだろうけど。ちゃんと古典的に「探さないでください」と書き残しもテーブルの上にある、合い鍵も郵便受けの中に閉まった。万事解決!だね。
そんな私はただいま変装しているんだー。
口調が違うのも役を保つためなんだよね、はっきり言ってこういう口調は私の性格上使わないようにしているので大変だったりするんだよー?

「……とまあ、こんな感じか」

知り合いにあったときはこの口調でなんとかしよう。
アタッチメントで前髪をぱっつんにした私は馴れない眼鏡を外して耳をほぐす。なかなか馴れないもので、ローエンはよくこんなのつけていられるなと感心してしまう。
そんな私の衣装は[パスカル]という名がついていた。アクアブルーのスカーフにラフなTシャツ、ショートパンツという格好。サスペンダーのミニポケット、ヒップバックの中に最低限の荷物もしまえてお得なことこの上ない。質実剛健、まさにこの言葉が当てはまるだろう。

因みに私はこの衣装になっていた名前を前に何かの文献で読んだことがあったはずなんだけれどジュードの住んでいたあの家では見つけることはできなかった。なので記憶をたどって説明をさせてもらうことになるんだけどアンマルチア族という大昔の文明を築いた伝説の一族の末裔。一族全員が技術者、だったらしい。独特な価値観を持っているらしくそれに伴い好奇心も旺盛だったとか。
少しだけ似たような共通点もあるわけだしその上ぱっつんに眼鏡だ。口調もかえてある。ばれないばれない、トロピカルヤッホー!

と、そう思っているのだけど。
何故か同じ船に乗船していたアルヴィンをみてしまった。始まり早々最悪な展開だ。
とりあえず彼にはすれ違うこともなくことを終えたい。ってこういうこと考えるときって大体がフラグ……、

「おねーさん、一人?暇なの?」

甲板で海を眺めていた私は知らないお兄さんに声をかけられた。なんだか女の子を扱うのが上手そうに見える。こういうたぐいの奴は構うだけ損、疲れるだけだと判断し、「連れが居ます」と適当に返して船室の方へと向かった。
廊下を早歩きで進めど後ろからストーカーのようについてくる。
はあ…とため息。踵を返して言い返そうとしたときのことである。

「悪いねえお兄さん、こいつ俺の連れだから」

くいっと後ろ手を引かれすっぽりと大きな体の中に埋まった。アルヴィン!と言いそうになって堪える、こんな序盤でばれるわけにゃいかないんだから。
とりあえず話だけは合わせておこう。知らない男に構われるのよりはアルヴィンのほうがマシだ。

「そうそう!もーっ、探してたんだよー?探して見つからなかったから甲板で一休みしてたんだからさー」

「悪い悪い。ちょっと商談の話が入っちゃって、な?」

そう言ったアルヴィンはスーツの下からGHSを取り出した。あれ、ちょっとまって。嫌なフラグ立ちすぎじゃない?
笑顔が固まる私に楽しそうに微笑む彼。
それは相手が、商談したという相手が、あの人であることを物語っているような…いやいや深読みか。ばれるわけない、ばれるわけない、ばれるとしたらいくら何でも早すぎる。だってまだ数時間しかたってない………!

知らない男から離れて数分、アルヴィンにありがとねっ!と言って離れようとするもなかなか離れることはできない。

「……おたくさぁ。それでバレないは甘いだろ」

「…………っ!?」

一息ついてアルヴィンは私のアタッチメントを外しにかかる。手櫛でくしゃくしゃにされていつもの髪の毛にもどされた。



「ファルスちゃんみーっけた」



最初からクライマックスだぜ!
(展開早すぎるっ!)

2013.9/25


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