[heroine side]
オーディーンが強敵なのは一目瞭然。だが多勢に無勢、私たちのチームワークあってオーディーンは敗れたのだ。弱点を知るものに負けるはずがないと譫言のように何かを放っているとき閉じこめられていたエルが解放された。あわてて駆け寄り簡単な診察をするが衰弱しているだけ。どこも異変はない。
「よかった……、」
安心したのもつかの間、データが違う!そう激情したオーディーンは私とエル目掛けて襲いかかってこようとした。が、その剣先が届く前にルドガーの槍で貫かれてしまう。
見たくない光景だ。多分クレインさんも同じように刺されてしまったのだろう。
こんなに過去を引きずるなんて。と思う傍ら今の仲間のことを批判できない私が居て、もやもやする。
空間がパリンと音を立てて割れる。空間が歪み、浮遊感に包まれる間私はエルをただただ抱きしめていた。
気がついたらそこはウプサーラ湖。天気も暗い、先ほどと変わらない景色に分史世界から帰ってきてないんじゃないかとも思えたが遺跡への道がふさがれていたのでそれは違うと判断できた。
轟く雷鳴。エルが再びうずくまる。安心させるように頭を撫でれば今度は払われることはなかった。かわりにぎゅうっとしがみついてくる。
言葉はかけない。雷に耐えるエルに頑張って強がっている彼女にかける言葉もなかったからなのだけど。
そんなエルの背中の方からルルがやってきた。あれ、一緒にいたはず……と振り返ればルドガーの足下にもルルがいた。
ルル同士が見つめ合い、威嚇をしあった。そうか、どっちかが分史世界のルルというわけね。そしてルドガーの足下にいた方のルルが色素をなくしたように消えていった。薄く、薄く。まるで以前私のみた夢のように。
もしかしたら私が夢だと思っていた光景は夢でなかったのかもしれない。
私を囲む皆の顔を思い出すことはできなかった。所詮は夢だと思っていたから。むしろ夢のことを今でも覚えていられる方が珍しいのだ。
「消えちゃった……」
「うん、消えちゃったね…」
ルルの言葉をオウム返し。私の時もこうだったの?そう訊きたい気持ちを隠しながら私たちはディールへと向かうことにした。
ルドガーのGHSが鳴る。相手はどうやらテンションの高い銀行員。ルルはルドガーの側へと寄ってノヴァの声が聞こえる位置でお話をしている。
私はというと何かを考え込んでいるミラの隣を歩いていた。
本物が偽物に勝てないと言うのならこの世界のミラが現れたら彼女は消えてしまうのか。もしかしたら私の考えていてことは間違っているのかも。本物、偽物関係なしに先に正史世界というフィールドに足をつけた者が優勢なのかもしれない。現在この世界のミラは精霊界にはいない、でもこの世界を巡ってもミラの情報が入ることはなかったとミュゼが困ったように話していたから、いないと仮定しよう。
そこに分史世界のミラがやってきてこの世界のミラが入ってくることができないとしたら……?
「…………」
結論、ミラとミラが対面する事はできない。か……。
「そうだ。あなたはどうしたい?」
「?」
「もし正史世界にファルス・マティスという人物が存在していたとしたら」
「……まあ、みてみたいとは思うけどね」
どんな人物なのか。ジュードくんが知らないというあたり、きっとその人は居ないと思うけれど。
叶わない夢のような話を続けた二人は互いに目を合わせることなかった。同じ境遇のようでまるっきり違う私たち。もう一人の自分がいるミラともう一人の自分は別人と認識されてしまった私と。未来がいい方向に転ぶかどうか分からない私たち、それは共通点かもしれない。
ま、俯いてばかりじゃいけないよね。
「ミラ」
なによ、といった顔。ばっちり目と目があって私は今一番の笑顔で笑った。
次の私の言葉でミラは顔を真っ赤にすることだろう。きっと林檎ほっぺを隠さないで私の前を歩いて八つ当たりと言わんばかりに魔物の相手をするのだ。
「私、ミラが好きだよ!」
まさに思った通りに
(ばっかじゃないの!と言われてしまう)
2013.9/22
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