守りたい気持ち

[heroine side]

エネルギーユニットを手に入れるために数度戦闘を重ねて私達は最深部へと向かった。悲しみを含んだ声で現れる巨大なそいつに「ここは一体どういう場所なんですか」と問うてみれば返答はまた理解しがたいものだった。

「お前たちの単位で九万五千二百十二年前、ひとつの文明が滅びた。最後に残った住人たちは、自分たちの体を生体データに換え、封印したのだ。遥か未来、データを見つけた何者かが復活させてくれることを信じて」

まるでGHSのメール文を機械が読みとってくれるかのように感情のない声が響いた。この星が九万五千年くらい前から存在していたこともだがその次第を経てここまで衰退してしまったことにもだ。
にわかに信じがたい内容に私たちは戸惑いの表情を表すほかなかった。

「まさに時の方舟ってわけね」

「このトールには、ひとつの文明と、四十二万七千八十六名の生体データが保存されている。他の世界では失われてしまった最後の希望だ。彼らが未来の人間に託したメッセージを聞いてはくれまいか」

現れるモニターの声はそれぞれの思いなのだろう。老若男女、何かの電子機器でも使ったのか浮かび上がるそれぞれの希望。未来のためにデータ化したとするが、データからどう具現化するのだろうか。まさか人間を原子レベルまで分解している?そんなことできるはずがない…。

「人間の傲慢さが、自分自身を滅ぼすはめになってしまった……この事実だけは伝え残したい。未来の人々が同じ過ちを繰り返さぬよう──」

オーディーンが此処を壊さないでくれとルドガーに頼む。多分エージェントが来る度に何度も何度も頼んでいたのだろう。ルドガーが俯きながらに「それでも壊すのが俺の仕事なんだ」と苦渋の選択を選んだ。

「もともと選択の余地なんかないのよ。どうせ、この世界も偽物なんだから……」

「そうだね。残念ながら私の時と同じように壊しちゃおうよ」

私とミラはさっさとやろうと言わんばかりに武器を構える。今回の相手に同情なんてない。ただの喋るギガントモンスターとでも思っておけば恐い物なんてない。
オーディーンも同じように剣をとる。

「なぜ私が、自分をカナンの道標と認識できているのか……それは、こことは違う世界から来たお前たちが教えてくれたからだ」

「分史世界のわたしたち…、」

ちらりと私に視線が集まった。皆が知る分子世界の自分達はどうやら私の仲間のことを連想してしまうらしい。彼の話からすると偽物のルドガーたちが時の方舟トール…つまり時歪の因子であるオーディーンのもとまで行って破壊しようとした。

「でも私の世界の皆は自分の居場所が分子世界だと理解していたけど……」

「ファルスのような世界が珍しいんじゃないの?普通、自分の世界が本物だと思うでしょ」

「もしかしたらファルスの世界も何度か襲われたことがあるとか?」

道標もないのに?いく宛のない疑問を胸に、私はオーディーンに分子世界のルドガーたちを殺したのかと質問をした。
答えは見当違いもいいところ。
データ化したというオーディーンはエルを光に包んでしまった。中ではエルが苦しそうに顔をゆがめている。その瞬間ルドガーが動いた。ルドガーがハンマーで重い一撃を食らわすが簡単に受け止められてしまう。このまま戦ったら敵の思うつぼ、そう思い注意を促した。

「ルドガー!皆も感情任せはだめだよ!怒り任せだと攻撃も単調してしまう!」

「でもエルをっ…!」

助けなきゃいけないと思うのはなにもルドガーだけじゃない。感情的になっているルドガーを止めたいがためにおもむろに殴る。
吹き飛ばされたルドガーは壁へとぶつかりその場に崩れた。空気が固まる。みんなが唖然とした顔で私とルドガーを交互にみた。
ルドガーも驚いて目を丸くしている。殴られた部分を押さえて、息を吐いた。

「……悪い、」

「冷静になれたのならよかった」

手をさしのばした。その手を受け取るルドガーはいつもの顔に戻っている。冷静を取り戻したルドガーが再度武器を構えた。



「行くぞ!」



戦いの火蓋が落とされた
(私達の底力みせてあげる!)

2013.9/21


- 31 -

[*前] | [次#]

- back -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -