[heroine side]
雨が降ってきた。ぽつぽつからしとしと、そしてザーザーへ変わる。この黒に近い灰色の分厚い雲をみていると雷も落ちるかもしれない。
ルドガーが避雷針になってくれれば問題ないかと、一人納得しおへそのある部分に手を置きながらカタマルカ高地を抜けた皆の後ろを歩いていた。
「ここ、昔は湖だったんですね……」
「それが黒匣のせいでこうなった」
「だから、これ以上ひどくならないように、ジュードが源霊匣をつくろうとしてるんだよ」
そうだ、私もそうだった。だからといって焦るだけじゃいい案も浮かばないし。私みたいに研究にしか没頭しない人間になってしまったら大切な人を失うかもしれない。それこそ私のように、だ。
息抜きを含め、ジュードくんはルドガーのお手伝いを買ってでるのはいいことなのかもしれない。色んな土地で色んな発見もできることだろうさ。
「間に合えばいいけど」
ミラは冷たい言葉を投げる。
確かにこの世界のミラがくれた時間で源霊匣を完成させることができなければ何もかもが水の泡だろう。が、頑張っている人をそう突き放すのは如何なものか……、いや、そういうところは昔の一年前最初に出会った頃のミラにそっくりかもしれない。
案の定レイアが怒りを含めた言葉を返していた。そしてミラも他人事だから自分が知る訳ないでしょうとあしらう。
そしたらエリーゼまでもが静かな怒りをぶつける。仲間のことを悪く言われるのが嫌なんだろう。
「ジュードは、きっと間に合わせます。ミラが、自分を犠牲にして与えてくれた時間なんだから」
「……」
私の仲間もそう思ってくれていたんだろうか。私が仲間より研究をとっていたことに不満も持たないで居てくれたのにはそういう思いがあったからなのだろうか。だとしたら私は源霊匣を完成させたかった、皆の期待に応えたかった……。
エリーゼの言葉が胸に重くのしかかる。
誰も私の話をしているわけでないのに内心かなりのダメージを負ってしまい私はしゃべることすらままならない。
エルが顔を青くしているのに気づいたのは大きな雷の音がなる直前で。
湖の跡地から光が漏れたと皆の視線が一つになった瞬間、空が大きな静電気を見せつけた。眩い光と恐ろしい音。エルが悲鳴を上げてその場にうずくまっていた。
「雷、怖いんだ」
「こ、怖くないですよーだ。ぐうぜん、おなかが痛くなっただけで……ひううっ……!」
ミラに反論するも、二度目の落雷に目を閉じて耳を押さえてしまう。エル曰く恐いのは雷ではなくパパを思い出すから、だそう。雷とパパ、一体エルはどういう人生を送ってきたのか。というかそもそも今まで疑問にも思ってなかったがエルはどうしてルドガーと行動しているのだろう。壮絶な迷子の子、なのかな?
考えを遮るように雷が落ちた。やだやだと喚いたエルに近づくエリーゼとレイアが同じ様に体をかがめて「キャー!」と声を上げた。
「みんな……?」
「雷って、超怖いよねー」
「はやく遺跡に入りましょう」
そう言ってエルを連れて先行く二人。二人を追うようにルドガーも歩いた。残るは私とミラ。
ミラは何とも言えない表情をしていた。
彼女たちはミラに自分たちの知っているミラの姿を重ねている。私が彼女達を自分の仲間だった人達と面影を重ねてしまうように。やっぱり人間すっぱりと割り切れはしない。
そしてミラはこの世界のミラ=マクスウェルという存在の大きさに押しつぶされそうにみえる。まあ、あくまで私感だけど。
「ミラ=マクスウェルは、あんな子たちに慕われているのね……」
「もうひとりのミラに会ってみたい?」
「そう……ね。どこにいるのか知らないけど、会えるものなら」
そう言えば貴方の世界のミラはどういう人だったの?と訊かれ私はなんと言えばいいのか考えてしまった。
うむ…、目の前のミラと比べるとするならば……。
「私の知るミラは作るより食べる!って感じかな。料理という素晴らしさを知ったミラのお腹はまるでブラックホールだよ」
何それ、と呆れる貴方の顔
(その後に微笑む顔が私の知るミラにそっくりだった)
2013.9/18
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