僕の登場を知らない私

[heroine side]

その日は何かと不思議なことが多かった。
不思議なことに巻き込まれることが多い私でも困惑するくらいに。

源霊匣研究材料の取引相手との交渉としてマクスバードへ向かえば丁度同じように商人に取材中だったらしいレイアと再会。
連絡はしょっちゅう取り合っていたけれど会うのは久しぶりだからと後で落ち合うことになっていた。

「では、そのように」

「いつもいつもすみません」

いえいえ源霊匣の実用化、期待してますよマティス先生。鼻につく臭いを漂わしたスーツ姿の男が姿を消したのと同時に深い息をもらした。
宿屋の一室を借りたその交渉はなんとか良い方向へと進んだ。
幾度となく断られてきたが実用化まで後少しという期待からだろうか。でも幾ら99%まであがったとしても実用化はできない。1%の危険でも人を傷つけてしまうようなことがあれば黒匣<ジン>を使用せざるを得なくなる。そんなことはできない。

「あー………、ダメだな…」

もう少し前向きにいかないと。100%を確定できる何かを見つければいいのだ。きっと何かしらの法則があるはず。まずは今までの資料を…….、ってこれからレイアと待ち合わせるんだった。折りたたんだ契約書や受領書を白衣のポケットへと押しこむ。ここらへん女子力がないってやつなのかもしれないな。


自分も宿屋を後にし、駅前でレイアを待ったが現れない。
取材が長引いているのかもしれないがそれならそうと一言連絡してくれればいいのに。
メールを送信。勿論現在位置の催促だ。もしまだまだ時間がかかるようなら私がレイアの邪魔にならない程度の距離で待っていた方がいいだろうと考えた結果だ。

だけど一向に返信が返ってこない。
仕事中だからGHSをマナーモードにしているのかもしれないと一人納得し、とりあえずここいらを歩いてみることにした。


商店街を虱潰しに捜しているがなかなか黄色い姿は見つからない。レイアからの連絡を待つためにマナーモードを解除していた私のGHSからシンプルな着信音が流れる。
残念ながらレイアではなかったけれど。

「はい、もしもし?」

『先生っあの!すいません!すいません!』

「え、ちょっと落ちついて……」

電話の相手は同じ研究に勤しんでいるマキさん。彼女の嗚咽混じりの声が落ちつくのを待って話を切り返した。マキさんは[また]実験中のものを勝手に使用して失敗してしまったらしい。多分バランさんも呆れているだろう。
私はとりあえずトリグラフ行きの汽車に乗る。
頭はすっかり仕事モードだ。


トリグラフ到着。サマンガン街道へ向けて町の中を早足で歩いているとまた着信が届く。これまたレイアではない。

『もしもし、ファルスかい?』

お相手はなんとカラハ・シャール領主のクレインさん。自然と背筋が伸びてしまう。お仕事の面接結果の報告を受けるような心境にちょっとだけ胃がきりきりと痛んできたり。
内容はというと珍しい鉱石が手に入ったからというもの。どうやら私に調べてほしいらしい。そう、最近クレインさんは何かと理由付けて私をカラハ・シャールまでひっぱるのだ。まあ、それが適度な暇つぶしにもなっているから今の私があるんだけど。
私はとりあえず研究所に戻らなければならないことを伝えた。本当のことなら今すぐにでも行ってあげたいが残念ながら自分たちのした失敗を片づけなくてはならない。

『大変そうだねファルス、気をつけて』

「分かっていますよクレインさん」

早足で街中を進む。電話をきればもう早足ではなくただのランニング状態だ。白衣が風で翻る。こういう時ちょっと迷惑。研究所に着いたらハンガーにでもかけておこう。

「研究所に着いたら研究室に行って事情を把握。それからそれについてのプチ反省会。帰りがけに白衣をかけて、レイアにも連絡しとかないと………、」

あれから一切無いレイアからの連絡。なにかやばいことに巻き込まれてなければいいけど。
見えた街の端。魔物の群がギラリと光っていた。お構いなく走りつづける私の背中を狙っているかのようだ。グローブをはめた拳の感触を確認する。
うん、大丈夫。大丈夫。



「よし…とりあえず一気に突っ切る!」




風の環珠装着中
(最近単得行動ばっかで誰ともリンクしてないなあ…、)

2013.8/15


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