料理人は素敵です

[heroine side]

緊張した趣でガイアスやミュゼと対談した時間は何故かしらあっという間で、ジュードくんの家に着いたのは日も暮れていた。汗のかいた衣服が気持ち悪く感じる。とりあえずシャワーにでも入ろう。

服を脱いで全身が露わになる。傷跡が薄く残っている程度。撃たれた肩の傷跡もかさぶたがはっている。一応医者だったものがいうのもなんだけれど、かさぶたってみているとめくりたくなっちゃうんだよね。めくった後の真っ赤な血がぷくぷくと浮かび上がってきたりだとか、かさぶたの下から見える肉だとか。見てるだけで高揚してしまう自分が居て。
他人のものなら早く治さなきゃいけないと使命感に駆られてしまうのだけど自分自身のことだと、ね?
かさぶたに手をかけて、やめる。

今はやめよう。悪化させて滞在期間をのばすのはよろしいことではないし、とお風呂場へと足を運んだ。


シャワーを浴びて半乾きの状態でリビングに戻るとそこにはすでにジュードくんの白衣が掛けられていて、エプロン姿のジュードくんがミトンをはいたままキッチンの方から顔を出す。

「なんだ帰ってたんだ。おかえり」

「うん、ただいま。お風呂場光ってたから先に夕食作ってたよ。いつも作らせてばかりじゃ悪いもんね」

チンとオーブンが鳴る。エレンピオスの方々が開発している黒匣は人々の役立つものばかりだとつくづく思ってしまうな。一旦楽をし始めると人間は苦労をしなくなってしまう。これは人間の悪い点だよね。
私はバスタオルを首にかけたまま夕食を待つことにする。思えばジュードくんの料理を食べるのは初めてだ。私がこの家を拠点に行動し始めてからと言うもの食事は全て私に作らせてもらってる。口上は勿論「ただ住まわせてもらうのは悪いから」。
家主様なのだ。ジュードくんが一言出て行けと言えば私はここを後にしなければならない。ま、それはそれで好都合なのだけれど。

ミトンを装着したジュードくんは持ってくる。今日の夜ご飯はフルーツグラタン。香りを嗅ぐだけでおなかが鳴った。全く女の欠片もない。エプロンを外すジュードくんが先食べていてもいいよと言うが勿論聞く耳持たず。

「ジュードくん遅いよ。私おなかへった」

「もう……、」

その言葉の続きはなかった。どうせだから先食べててっていったでしょうみたいな言葉だろうさ。着席した彼を見、手を合わせて食べ始める。

「…おいしい……!」

フルーツの酸味と濃厚なチーズのハーモニー。勿論食材選びに徹したのは私ではあるがフルーツグラタンの発想まではしていなかったために予想以上の美味しさで。あつあつなそれを一口また一口と手を動かしてしまった。止められない止まらない。そんな商品をどこかで目にしたことがあったがその感想がぴったりなのだ。
あっという間に平らげてしまった。バナナなどの満腹感を与える食材が入っていたのですでにお腹はいっぱい。
ごちそうさまでしたといえばお粗末様でしたと返ってくる。お皿あらいまでは流石にさせるわけもなく、私がジュードくんの着用していたエプロンをつけた。


食事こそは一緒にとるが、ほとんど別行動。特にこれといった会話もない。あるといえば源霊匣の研究について。私が今日ローエンにあったこと。ガイアスやミュゼと面識を持ったことなどは言うこともできない。そうだったら私がこの家を空けてしまったことがばれてしまう。食材に関しては一度だけ「ルドガーに頼んでいるの」と言ったことがあるから大丈夫だと思う。
私に言えないことがあるように、きっとジュードくんにも言えないことがあるのだろう。ジュードくんが私を呼び捨てにしてしまうような心境だとか、何かを変えてしまうような変化が。それは研究だけでなく、私が別行動をしている間でルドガーと関わっているんじゃないかと変な確信があったのだ。

私に関係はないのだけど。
ジュードくんたちと私との間には白線のようなものが引かれてある。分かり合うことなんてないだろう。というかない。私が分かり合おうとしないのだからこれは絶対だ。



「だから私は」



有耶無耶な気持ち
(知らないふりをする)

2013.9/15


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