[heroine side]
特徴を訊いてしまった私はなりゆきでそのアーストと名のる人を捜すことになってしまった。人に尋ねれば「ああ、アーストさんね。知ってるよ!」と大半の人がその人の存在を知っているのに居場所を知るものが居ない。これは面倒な頼まれごとだ。
頭を抱えたくなった心境でナァーという鳴き声が聞こえた。足下にすり寄ってきたルルの周りには連れなのか十何匹の猫がいる。……ちょっと鼻がムズムズしてきた。風邪かな?
「ルルのお友達?」
「ナァー」
「あ、ネコ派遣ってわけじゃないんだけどルルはアーストって人の居場所知ってたりする?」
ネコの手も借りたい、なんて冗談半分に言えばルルは足下を離れクランスピア社のある通りへ向かいだした。ちらりとみる瞳はまるで付いてこいと言ってるみたいで。
いやいや、まさかね?と苦笑気味にルルの後ろをネコと一緒について行った。
「ナァ」
くるりと振り向くルルにお礼を言いたいが言えない。いやいやいや、この人アーストって人じゃなくてよ。ガイアスって人なのよ。
え、ってかなんでエレンピオスに?
私の知るガイアスはカン・バルクから出ることのあまりない、外交するときくらいに出かけるような人だった。基本ローエンがガイアスの代役をしている状況が多かった私の…分子世界とは全然違うのだ。
「あの、あなたが…アースト、さんですか?」
そうだと言うガイアス…アーストをみつけた私はローエンにメールすることにした。全く、これだから余計なことには関わりたくないのよ。アーストにこの場所から離れないで下さいねと一言いって立ち去ろうと踵を返した。何かとぶつかってしまった双方ともによろけてしまう。反射的に謝って顔を上げれば息をのんだ。
「っ!?」
「あらあら〜ガイアスったらこんな可愛い子とデート中?」
人…否、精霊が居たことに。そしてそれが私も知っている精霊だったことに驚きを隠せない。それよりもなんでこんなところに、といった衝撃の方が大きいかもしれない。……というかやっぱりガイアスじゃないか。アーストっていったい何の話だという疑問も浮かばせた。ガイアスは溜息を吐いて呆れ顔。
地に足を着けていない彼女はにっこりとした笑顔でこんにちはと笑う。
「こ、こんにちは……、」
「あらあら恐がらないで?私優しいお姉さんだから」
押し黙る私、この場の雰囲気が一気に重くなる。何というか、話しづらい。自分の知る世界でならどうしてここに?と問うことができるのだが完全なる初見。初対面なのだからそれといった会話もなく、妙な真似すらできない私はただひたすらにローエンの到着をまだかまだかと待つことになったのだった。
「……おそいよ、ローエン」
「おや、待たせてしまいましたかな」
ローエンは呑気に一息ついてからやってきたようで。私はしゃがんでルルと戯れる始末。ガイアスは端から見ればまとわりついているようにみえるミュゼを軽くあしらっていた。
太陽も真上から日没の間という位置。はっきりいってそろそろ戻りたいのだけれど。ローエンの登場により私は去ろうとあるきだす。つもりだった。
「ナァァ……、」
カリカリと手入れのされている爪で足首をかっちゃくルル。ネコにまで引き留められてしまい、人間、精霊、ネコという謎の集団は後々クラン社の前で人を集める話にまでなったのだとか。
「お前が分子世界のジュードか…確かに技量はあるようだが」
「話はルドガーから聞いてるわ。でもジュードが女の子だったらこうなっていたのね、ふふ」
二人は興味津々と言った様子でなめまわすように上から下へと見る。それが恥ずかしくてローエンの背中へと隠れた。
「ほほほ、まるでエリーゼさんみたいですね」
ラスボス級の逢瀬
(さ、三人して、からかわないでよ!)
2013.9/14
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