家主居らずの密会で

[heroine side]

チャイムが鳴る。ジュードくんは研究所へ行ったので現在私一人。出るべきかどうか悩んでいたらGHSが震え出す。名前はルドガー。私は迷わず扉を開けた。

「ファルスー!」

「エル、元気そうで良かった!」

ぼふっとだきついてきたエルを支えて私はインターホンを押していたルドガーに「いらっしゃい」と中へ招いた。他人様の家で勝手に人を招くことが良いことではないのは分かっているがそうでもしなきゃ自分の目が文字列で埋まってしまう。それにきっとルドガーやエルならジュードくんも怒ったりしないだろうし。

多少片づけた部屋。それでもまとめられていない書類の山積みもまだまだあるわけで。エルに一言注意しながらキンキンに冷えたジュースをついだ。
ルルは例によってネコ派遣のよう。ひっそりと自販機で買っておいたネコ缶はまた後日、か。

「ファルス、これ」

「ごめんね助かる。んで、いくらだった?」

重量感のある袋を受け取り、冷蔵庫の中へ入れていく。これで少しの間はなんとかなるだろう。今朝ルドガーにメールを送ったのは一応自分が目を覚ましたことを伝えたついでに少し食材を買ってきてほしいと頼んだのだ。ルドガーに言われた金額を返して私も椅子に座る。

「……無理、してないか?」

「えっ?……あーしてないとは言えないけど…ね?」

含みをいれて笑えば何も訊いてこなくなる。そう、人間というのは深いところまで追求する勇気が足りない人が多い。私がこの家で目を覚まして二日目という速さで馴染もうとしてることに違和感しか感じられないのだろう。
正直自分自身もそうだ。とても苦しい。笑う余裕なんてない。でも一刻も早くこの世界に慣れているようにみせなくては、と思うのだ。今はこの家に厄介になっているが勿論傷が完治さえすれば離れるつもりでいる。そして場所を知られたくないのだ。むしろどこかの街道の横穴に住んでもいいくらいの気持ちである。お金かからないし見つかれにくい。まさに一石二鳥。
気持ちがそわそわして近くにあった本を片づけ始めた。こうしていれば表情を見られなくて済むし。………まあ、ちょっとばかし不自然な行動なんだけども。


「ねーねーファルス」

「ん?」

「この世界きらい?」

子供はなんて率直なんだろう。私はつい笑顔が固まってしまった。
そうだ、嫌いに決まってる。この世界も、この世界に住む人たちも……別に悪い人たちじゃないのは分かっているけれど。嫌いというか受け付けたくないのだ。こんなのハリボテの世界。私からしたらこんな現実が偽物だ。 

「嫌いじゃないよ」

嘘っぱち。こんな子供の前で嫌いなんて素直に言えない。良心が痛む。エルに微笑み片づけを再開した。そんなことミラにも訊いていたのだろうか。……だとしたら残酷な質問ね。

例え嫌いといっても帰れるわけじゃないんだから。

「…あれ、そういえばミラはこの世界でどうやって暮らしているの?」

「ミラはねーエルとルドガーがきっちり世話してるよ!」

疑問に腕を組んでえっへん!といったように答えてくれるエル。だがその発言にはいささか齟齬が生じている模様。なんだそれ、まるでちゃんと寝床もあるし食事(餌)もあるし住み心地悪くないよ!みたいな。もはやルルと同格になっていそうなミラの立場って一体……?

「ミラをペットにでもしてるの……?」

「…っ、違うっ!!」

ルドガーが慌てて訂正にはいる。その慌てふためきようがとても下らなくて笑えてきた。どうやらミラは今晩の夕食の下準備に入っているから来られなかったんだとか。ちょっと話したいこともあったけれど仕方ない今度にしよう。
日も暮れてルドガーが立ち上がったので私も玄関先まで見送った。
ちょっと名残惜しいけど我慢。またねーと手を振るエルに私も同じように返した。



「バイバイ」



それは似ているようで違う
(二人の後ろ姿が見えなくなるまで手を振った)

2013.9/11


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