現実味ってどんな味?

[heroine side]

一夜明ける。それはそれはとても長くて短くて。分かっていたことなんだけど涙しかでなくて。挙げ句の果てにジュードくんに同情される。その顔を滅茶苦茶にしてやりたいくらい憎くなった。

やはりここは正史世界。ジュードくんの部屋だった。
クレインをルドガーの槍で貫いたとき、この場一帯に居た皆が一時此方に来れたらしい。だけどこの世界の本物はジュードくんのしる皆、私の知る皆は薄くなって、しまいに消えていったんだとか。

倒れた私を消えるまで治療してくれたエリーゼとレイア。嬉しいのに悲しい。
私は生き延びたのに皆が居ない。私の存在理由もない。私のファミリーネームも、親も、住む場所も、自分を証明できるものさえもない。
私はこれからどうすればいいんだろう。


朝日で目覚めた私はソファから降りた。ここの宿主はジュードくん。勿論病人がベッドで寝るべきだと彼は言ったがそれを上回る勢いで彼を寝かせた。こういう変なところで強情な人苦手なのよね。そんな彼はまだ寝ているらしく私は昨日自由に使ってくれていいよと言われたので冷蔵庫の中を開けて朝ご飯を作ることにした。

あまり量の入ってない冷蔵庫。
買いに行った方がいいだろうがここはヘリオボーグ。私が知るものと一緒ならば研究所の他にこの家のような研究者の寝泊まりできる住宅地があるくらいのもので。もともと研究するためのものだから自販機があれば対して困らないのだけど……それじゃあ栄養が偏ってしまうだろうし。かといってトリグラフまでたどり着けるかどうか分からない。走るとやっぱり傷口は痛むのだ。
ジュードくんに頼むのもありと言っちゃありなんだけど、厄介になってる身で我が儘も言っていられない。

思い出したようにGHSを取り出した。
このGHS、私のものであり私のものでないこれはジュードくんの名義になっているらしい。まあ私はこの世界において存在すらしないのだから誰かの力を借りなきゃ持てないだろう。別にそこまでしてもらう必要もなかったけれど折角用意してくれたもの返すわけにもいかず、アドレス帳にジュードくんを含めた六名の名前が入っているそれは昨日開くことさえなかった。迷惑メールの一つもこない。タイムラインのごとく音が鳴るはずのメールも一切こない。

ルドガーにメールを送って私は調理に取りかかる。調理と言うほどではない、質素にパンと目玉焼き。ふきんで拭いたテーブルの上にそれらを置いて私はジュードくんを起こそうと部屋をノックした。案の定寝ているジュードくんから返事はない。ドアを開けて彼の体をゆする。

「ジュードくん起きて。朝だよ」

「ぅん……、…ん、」

上体を起こして頭をポリポリかく。そんな彼に朝食できてるからねと一言残してリビングへと戻った。

一足先に朝食を頂いていたらぼさぼさ状態のジュードくんが起きてきた。おはようと挨拶を交わし彼は目の前に座る。手を合わせていただきますをする彼。私はそんな光景を久し振りに見た気がする。

「朝食用意してくれるなんて…ごめんね」

「用意ってほどじゃないけど。もっとマシなもの用意させたかったら冷蔵庫の中身増やしてよ、こんなの毎日とっていたら栄養が偏るよ」

「……うん、そうだね」

正しいことを言ったはずだけど。だけど私が悪い人になったみたいな空気になってしまう。はっきり言ってジュードくんとは上手くいっていない。
それはきっと彼が私に対してどこか遠慮しているから、ということだからだろうか。
一口大の大きさのパンを頬張り無理矢理飲み込んだ。
マナーモードにしていたGHSが震えている。勿論初めてのメールの相手からであり私の思うような返答が書いてあった。
ありがとうの言葉を送る。
そして空になった皿を重ねて両手をあわせた。



「ごちそうさまでした」



二日目の朝
(ぎこちない二人)

2013.9/10


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