ハローハローオハロー

[heroine side]

夢を見た。それはとても残酷な夢。
共に笑いあった皆が、悲しそうに微笑んで居なくなる夢。研究と仲間、私はいつも研究を選んでいたけれど…これを期に仲間とほどほどに会うことにしようと思っていたんだけどな。
あれ、これを期って…私は今まで何をしていたんだっけ。分からないからまあいいや。

眠る私を囲むようにして何かを話す皆が薄くなっていく。まるで個体から気体に変わるように…薄く、薄く。


「………ん、」

柔らかな日差しが照らされる。目を開ければ見慣れた天井。視界に入る散らばった資料、ベッド周りだけは綺麗に片されていた。
上体を起こそうと腕を動かせば激痛が走り思わず声が漏れた。そして質素な部屋着の下から見える包帯に記憶が蘇る。

ルドガーに撃たれた右肩、クレインに撃たれた背中。切り傷などはほとんど見えなくなっていたがこの二つだけは包帯の下に隠されていた。動かす度に痛むから完治とまではいっていないようで。
それよりそもそも今日は何日で何時なのか。GHSを開いてみれば日時は確認できたが違う意味で小さく驚く。待ち受けが初期設定なのだ。去年、クレインさんの屋敷前で撮った集合写真…フォルダにも入っていない。訳が分からずそれを放り投げた。

痛む体に叱咤してベッドから落ちるように降りた。
目に見える資料は私の知るものとは別のもので、さらっと読んだだけだが似たようなものを昔見た気がした。ああそうか、源霊匣の研究にあたって昔の資料から見直す予定だったはずだ。

「…………」

もとの位置にそれを置き、嫌な違和感を感じながらも部屋を出る。
この部屋は何だか私の知るようなものではない気がして。チェストの上に置いていたはずの地球儀も思えばさっきまで寝ていたベッドの布団カバーも、色も種類もましてや有無さえも違う。ここは一体なんだというのか。


その答えはあっさりとでてきそうだ。
けして広くないリビングも資料で溢れかえっている。その中心で寝ている白衣の男。何で貴方がここにいるのと言いたい口が押し黙ってしまった。不安しか満ちていないから声もでない。彼の向かいの椅子は文献やら本やらと積み重なった山が乗っている。それを下ろして私が腰を下ろす。

「………あ、さ、ですよー…」

口を開いても声がかすれて上手に喋れない。そして今の状況を正直に表すのがおなかの音。
せめて水だけでもと台所へ行く。他人様の冷蔵庫を開けるのは常識にかけるので食器棚の中に入っていたコップを取り出し水道水を汲んだ。

透明な液体を揺らしながらもとの位置まで戻る。あの人はまだ起きないらしい。そもそも私が先ほど確認した時間はもう少しでお昼時と言ったところなのだ。きっと夜更かしでもしていたんだろうが寝るならベッドで……、ってそうだ、私が占領していた。
だからといってこんな格好で寝られては将来腰を痛めるだろう。若いからって骨の衰退をなめるものではない。起こす義理はないけれど…、

「ごほっ…ごほっ、」

水道水を口に含む。浄水器に入れてないからやっぱり美味しいとまではいかない。この鉄っぽさに小さくむせてしまった。
その音でようやくしわしわの白衣の彼は顔を起こす。
その寝ぼけ眼は洗面台の向こう側の自分にちょっとばかし似ていて。一瞬、本当一瞬だけど死にたくなるくらい悔しくなった。

ジュードくんは目の前の私を認識して大きく目を開ける。完全に目が覚めたみたいだ。
まだ飲みかけのコップを置いて作られた笑顔で挨拶することから始めよう。



「おはよう」



そして君は……。
(同情の笑みを浮かべるのだった)

2013.9/9


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