ガタガタ歯車

[heroine side]

私の拳はクレインに届かなかった。
ルドガー・ウィル・クルスニク。彼が私の攻撃の邪魔をしたからだ。私の知るルドガーじゃないのはすぐに悟れた。袖のしたから見える腕の皮膚という皮膚が黒ずんでいる。
これは……?

「ファルスさん!」

呼ばれてルドガーの攻撃をすんでのところでかわす。やってきたのはジュードくんたち。ジュードくんはいいけれど、こうして現れてみるとすごい話。瓜二つの顔がいっぱい。だまって立たせればどっちがどっちか分からなくなりそうだ。
とまあ、冗談は程々に。同士の増えた私たちが蹴散らす人数も上々だ。
ジュードくんが蹴り上げ、私が吹き飛ばす。
文字にするなら正史世界と分史世界の共同戦線、だろうか。

「こっちのルドガーは私たちに任せて!あなたたちはクレインをお願い!」

言うが早し、目標変更した私は次々と攻撃し始める。皆は戸惑いながらもついてきてくれている。どれ位の間ルドガーと行動を共にしたのだろう。私の知らない皆、その空白の時間。私が一人で研究に向き合っていた時間。

きっと私が目の前の人と知り合いだったのなら私の敵はジュードくんたちだったのかもしれない。
自分の世界を守ろうと、正史世界から来た皆に拳を向けていただろう。勝てど負けれど明るい未来はいつまで続くか分からないのに。それでもきっと私は戦う。
ジュードくんたちが他の分史世界を壊すように私たちも同じ様に他の分史世界を壊す。
他の世界とのつぶし合い。規模が計り知れない戦争だ。

「この世界を壊させはしない!」

「私もそうやって素直になれたら良かったな…、」

小さいぼやきは金属音に銃声にかき消されていく。諦めきれない心の闇が少しだけ広がった。
双剣からハンマーへと変えたルドガーの攻撃についていけず吹き飛んだ。受け身をとるが足元の寝転がった兵士に足を取られ思わず跪いたような格好をとってしまう。そこを銃で狙うルドガー。私は成す術なしだった。

「くっ……!」

肩を撃たれ、だらんとする腕。右肩から下は今使い物にならないかもしれない。逃げながら治癒術を施して止血、応急措置とする。
ジュードくんたちはクレインのもとまで着いたようだ。兵士と同じように訓練は受けているだろうクレインだがきっとルドガーほど強くはない。これで勝った……!そう思った瞬間のことである。

「これだからファルスは詰めが甘いと言われるんだ」

クレインが笑う。持った銃の指す先はルドガーから離れたところにいるエルを狙っていて。
思わず走る。エルの周りは丁度兵士の山ができていたから隠れていたんだろうけどクレインが居る場所も少々高めの位置。エルが見えていたのだろう。
迂闊だった。兵士の間をすり抜けるように進んでエルを庇うように立つ。クレインからの銃に視線を向けてばかりは居られない。ルドガーもこっちに向かってくる。

「子供を狙って楽しい?」

「……その子供だけは殺す!」

この世界のルドガーはエルと知り合いでないようだ。そもそもルドガーとエルの関係も分からない私はたまに見せる表情がそっくりなことからてっきり年の離れた兄弟か何かだと思っていたわけで。
エルと呼ばすに子供と呼ぶルドガーに違和感が感じるのも仕方がないことだと思う。

再び双剣に持ち替えたルドガーが真っ向に向かってくる。このままじゃエルも巻き添えをくらってしまうだろう。
とっさに構えた。両足でしっかり体重を支え、両手に気をためるようにして放つ。

「獅子戦吼!!」

吹き飛ぶ彼の姿を確認する暇もなくエルを私の体の内側に隠す。響く銃声に熱くなる背中。体の力が抜けていくのが分かった。
エルの体格じゃ勿論私なんかを支えきることはできず、そのまま押しつぶされる形となる。だけどそれでいい、エルのようなまだまだ未来のある子こそ生きる価値があるのだから。



「ファルス!!」



そして私は目を閉じる。
(世界が──………終わる、)

2013.9/3


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