A wonderful friend

[heroine side]

ジュードくんが倉庫から居なくなった。
気づきはしたが何も触れなかった。それはきっとジュードくんという優しさを少し理解したからだったと思う。

触れた二人の体はあたたかった。
私のことを分かってくれる、居ないと思っていた人たちが今ここにいる。此処にいて、触ることのできる。それが本当に幸せで。これが永遠に続けばいいのにと思ってしまうくらいに。

でも、この世界を壊さなかったらあの人たちが帰れない。ジュードくんたちはともかく、エリーゼやエルみたいな子供が自分の世界に帰れなくなるのは可哀想だろう。
そんなことのために世界を壊すのか、と問われれば素直にイエスと返せるのが問題か。

「………さて、やりますか!」

自分の頬を挟むように叩いて立ち上がると同じ様に立ち上がる二人。その顔は決意に満ちていて。馬鹿な人、人間馬鹿ばっかだよね。
私ら三人、弧を描いた口はチャックをしたままだけど。それは語ることなくても分かっているからなので。

「私を止めれば多少は長生きできるのにね。……いった!」

「おたくは止めたって一人でもやってのけるだろ?」

デコピンされたおでこが鈍い痛みを訴える。彼の指がそのままなぞられた。そしてまたデコピン。何をしたいんだアルヴィン。
真っ赤になっただろうそこを前髪で隠して異変に気づく。

クレインさんが居なくなっていたことには気づいていたのだけれど。きっとジュードくんはそれを追ったと思っていたから気にしなかった。

重たそうな足音。それも一つや二つじゃない。
押し黙る私と同じくして身構える二人はそれぞれ武器を構えた。


「アルヴィン一緒に!」

「ああ!」

「「転留追刃穿!」」

なぎ払った人たちはその衝撃で吹っ飛んでいった。気絶している兵士の山がゴロゴロとあちこちに増えていく。その分私たちの戦うスペースも減り、次第に囲まれてしまう始末に。このままじゃ袋叩きもいいところだ。
クレインさんが長銃をもって現れる。
あの禍々しいオーラを放ったその姿に震えが止まらない。いつも優しく接してくれた彼がとても怖い。彼のよどんだ笑みが恐い。
安全装置の外したそれは静かに私へと狙いを定める。私が世界を壊すと言ったからだろう、彼のその選択は間違いではない。

──だから、私は逃げなかった。


「ファルス!!」

ぐんっと腕がもげそうな勢いで引っ張られる。
アルヴィンだ。アルヴィンが助けてくれた。
その瞬間女相手だというのに容赦ないアルヴィンの拳が私の頬を直撃する。涙が出た。
殴られた痛みよりも、今自分が死に急ぐような真似をしてしまったことに対してだ。死ぬのが恐くなった。自分で壊すなんて言っといて自分が死ぬのが恐くなった。
他人事のような発言は自分の首を絞めていて。
それでも成さなければならない、なんて世界はなんて非道なのだろう。

でも、この限られた命。せめては本物の彼らの道標になりますように。

アルヴィンの背中を狙った兵士の頭にレイアの棍が振り落ちる。感傷に浸っている場合ではない。敵はクレインさんだけでなく私たち以外なのだ。
二発目の発砲。これは避ける。
アルヴィンのパンチで目が覚めるなんて私もまだまだだなあなんて思ってしまうくらいに弱っていたらしい。


「「グラヴィティ!」」

鎧の重さも加わってて重力に耐えきれなくなった兵士たちがひれ伏した。廊下側から現れたエリーゼとローエンは私の知る人たち。
仲間が揃った。嬉しくてつい二人の名前を呼んでしまう。

「ファルスー!」

「ふごっ!?ひぃほ!?」

「久しぶりの感触ー。やっぱりファルスは噛みごたえ抜群だねー!」

すぽんっという勢いでぬいぐるみを引っこ抜く。エリーゼがティポを追うように近づいてくる。そしてその後ろをローエンが敵を追い払うようにナイフを投げつけながら威嚇していた。

「エリーゼ、ローエン、いいの?」

兵士の中にはきっとローエンの知り合いもエリーゼの知り合いもいることだろう。屋敷の警備にあたる者等との戦闘。そしてこの世界の破壊をする者たちへの加担。それが何を意味するか理解した上で私の肩を持ってくれるのか、そういう意味である。

「私はこの世界とファルスを天秤に掛けてもファルスをとります…!大事なお友達だから!」

「私は今お暇を頂いておりますから。何、少々鍛えて差し上げましょう」

ローエンもエリーゼも私を庇うように立つ。勇敢な闘志、ほれぼれしちゃう。私はそんな皆に助けられて生きているのだ。
まだまだ襲いかかってくる軍勢。
見下すクレインさんに向かって駆け出した。
みなぎる闘志。悔いのない戦いを!



「これ以上私たちの邪魔をしないで!」



獅子をも狩る勢いで
(ラストバトル、狙いはクレインただ一人)

2013.8/31


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