[jude side]
事件は突然起こるもので。
高みの見物クレインがいつの間にか居なくなっていたのだ。
そのことに気づいたのはファルスさんがレイアとアルヴィンに抱きついてから数分たった頃である。
抱きつくまではいい雰囲気だったから僕も何も言わなかったけれどその後の余談も良いところ。
「っていうかアルヴィン本当に元傭兵?いくら現在商人だからって……結構遠くまで匂ってたよ?」
「わたしもそれ言いたかった!商人としての身だしなみだったにしろこんなにキツいんじゃ商談とか失敗しそ…」
「ファルスだってこの匂い好きだって言ってたろーが!」
「いやー…店先で嗅いだときはとてもいい匂いだったんだけどさー。なんか、なんかアルヴィンにはあわないよね」
「あ、わかった!アルヴィン、柔軟剤の匂いと混ざってるからだよ!」
「それだ!」
きゃっきゃうふふな会話に置いてけぼりな僕は一瞬この人たちをおいて世界を破壊したくなる。そこで気づいた、時歪の因子が此処にいないことに。
声をかけるべきか否か。
せっかくの再会だ。僕は一人、来た道を戻る。
来た道を反対側から見るとまるで未知の世界だ。屋敷の中を冒険したことない僕はその構造にてんてこ舞い。
走る音が聞こえたそのドアの先に皆が居た。
そう、僕の知る皆だ。
「ジュード!」
僕の無事に安堵の息をもらしてくれる皆を思うこの気持ち。わかるからきっと僕はさっきの三人に対してそっとしておいたのだ。
ルドガーが簡単に説明してくれる。
僕たちが居なくなってからこの世界のエリーゼとローエン、そしてルドガーに襲われたこと。見事撃退した彼らから情報を得たという事も。
ここの世界のアルヴィンたちは自分たちが分史世界に居る事実を知っていること。ファルスさんを連れて行こうとしなかったのは他の分史世界で彼女の存在が無かったからだという。一つならまだしもいくつ巡れど現れるのは僕。
あの時。アルヴィンと対峙していた僕は視線で人を殺しそうな目で攻撃されていた。何かを恨むような目。僕自身怨まれるようなことはしてないが、数々の僕のせいだという事なのだろう。
なんでファルスの代わりのようにお前が居るんだよ!って顔をしているアルヴィン。立場が逆だったら僕のことをそこまでして守ってくれるだろうか。
「ん、どうした?」
「………ううん、なんでもないよ」
愚問だね。
仲間思いは世界共通、ちょっとやそっとで壊れる絆ではないだろう。
「ねえジュード。あの子はどうしたのよ」
ミラさんの言葉にエルが曇らせた表情でかえっちゃったの?って続く。
大丈夫だよとエルの頭を撫でようとしたとき、屋敷中に銃声が響き渡った。アルヴィンの使う銃とは違う、まるでアサルトライフルのような響き。
バタンと開けられたドアからもう一人のルドガーたちが現れる。僕たちを見る暇もないのか走り去っていき。また同じ様な音が鳴る。僕たちも屋敷に詳しいローエンを筆頭に二発目の銃声響く部屋まで向かった。
「また発砲!?…まさかファルスがやったとか?」
「でも銃なんて持ってたら普通、脅すときにみせるだろ」
レイアの言葉にアルヴィンが返す。そうだ、万年筆なんかで脅すのはきっとそれ相応の物がなかったからだ。
先をいくこの世界のエリーゼたちの後ろ姿を追いかける。こういうとき眠ったままのルルも今はエルの隣を走っていた。
「僕らが戦っていたときも出すような素振り一切見せなかったからそれはないんじゃないかな」
「とにかくいそごーよ!ファルスが心配!」
「ああ!」
同じ様に見える廊下を走っていくとどんどん薄暗くなっていく。そう、辿り着いたのは先ほどまで自分も居たあの倉庫。
煙たいその中の惨状、それは何十という兵士に囲まれている彼女たちの姿だった。
だが、ただ囲まれているわけじゃない。彼女たちの足元は倒れている兵士の山ができていた。
「これ以上私たちの邪魔をしないで!」
獅子奮迅の彼女等
(また一つ山増える)
2013.8/30
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