[jude side]
中は倉庫のようだ。薄暗いそこの奥へずんずん進むクレインについていく僕の隣を歩いていた彼女が足を止める。きょろきょろと何かを探すようなその行動はさっきアルヴィンが気にかけたときと同じ感じで。
「……クレインさん。この部屋、意外と物置いてないんですね。物置かと思っていたけど走り回ることもできそうだ」
「ああ、あまり使われていない部屋だからね。ファルス走ってみるかい?」
「子供じゃないんですから」
(ジュードくん聞こえる?この部屋、誰か居るから気をつけて)
彼女の声が脳裏に響く。警戒を高めて僕は床の埃をみた。確かに真新しい足跡が数個ある。クレインが今つけている足跡と同じものも見受けられたがクレインよりも数センチ大きめの靴跡、ファルスさんと変わらないくらいの大きさの靴跡。あまり使われてないとするとおかしい話だ。
ふと気になる。誰かとは誰なのだろう。あまり良い予感はしない。彼女の表情がどんどん堅くなっていく。もしかしたらその誰かという人は彼女の知り合いかもしれない。
いや、違うか。
知り合いだったとしたらそちらに寝返ることも想定しておかないと。もともとファルスさんにとっての世界だ。彼女にしてみればここは本物の世界、仲の良い人たちと共に過ごしたくなる気持ちは当たり前なのだ。
僕がアルヴィンやルドガーと行動を共にしているのと一緒。
その時が来たら僕はどうしようか。顔には出していないはずなのに彼女は話しかける。
(私、言った言葉をねじ曲げるようなことはしないから)
「………、」
まっすぐ僕の顔を見た彼女は使命感にかられている、そんな彼女はまるでミラのようで。
ますます僕には似ていない。他人だ。としか思えない。でも僕に兄弟がいないわけで…流産とかいう話も訊いたことないと思う。やっぱり分史世界の僕なのか。性別が変わるだけでその分環境が変わるのだから、という考えに落ち着いた。
「これだよ」
ファルスさんは鉱石を受けとる。
その時聞こえた複数の足音に僕は咄嗟に彼女の背中をあわせ、構えた。
「……っ!?」
現れたその人は僕がよく知る、そして知らない人物。見た目はさっきまで一緒にいたその人なはずなのに瞳が違った。敵意しか感じられない。
だから、この人は僕の知る人じゃないと直感できた。
「クレインさん。どういうつもりです?」
「おたくこそどういうつもりだ?敵側についてるなんて聞いてねえよ」
クレインに向けた彼女の言葉を僕の目の前の男が返す。
アルヴィン、とはいえ分史世界のアルヴィンだ。
つまり僕たちの読みは外れていた。
そして次にこう予測ができる。この人たちは他の世界、つまり分史世界の事を知っている。そしてこの世界にもエージェントがいるのだ。
「……なる程。レイアとの連絡がうまくいかなかったのは皆が他の分史世界を壊しに移動していたから、ってことね……納得」
「僕たち入れ替わりだったんだね」
みたいね。と冷静に返す彼女の顔は困惑に満ちていた。この世界の[僕]が知らないうちに皆がエージェントと接触を図っていたという事。鼻につく香りは僕の知るアルヴィンとは違う。気にもとめない彼女、喋った言葉は「もう一人居るんだよね」。疑問符ではない、確定するようなその物言いにアルヴィンの後ろからレイアがでてくる。
「参ったなー。確かに約束無視してルドガーの手伝いしたわたしが悪いんだろうけど」
「ファルス、アンタ分かっててそっち側についてんのかよ。この世界がどうなってもいいってわけか?」
「私は……単純で、バカだからね」
そんなの言わなくても分かってるでしょ。と構える彼女に僕は少し苛ついた。どうしてそんな風に自分の仲間と戦えるのか。拳を向けることができるのか、理解しがたい。
クレインは僕たちの被害に巻き込まれないよう離れたところで高みの見物をしている。
僕たち二人じゃ時歪の因子を壊すことはできない。あとで軽く脳震盪でも起こしてルドガーのもとに連れて行こう。
目の前の二人が構える。彼女もそれに答えようと真っ直ぐな瞳で腰を低くした。
「いくよ、ジュードくん!」
繋がる彼女の繋がらない思考
(走り出す彼女の表情が見えない)
2013.8/28
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