キミと私と意思疎通

[heroine side]

クレインさんの屋敷へ着いた私は中へと入る。少し大人数になってしまったがどうにかしてごまかそうと言い聞かせて。
中はもぬけの殻、静寂に包まれた玄関先。ロビーに入ってもそれは変わらなかった。いつもなら用件を尋ねる兵士の一人や二人くらい居てもおかしくないはずなのに。
私でも分かる、これはおかしい。

「クレインさん?」

広い部屋に私の声が響いた。
二回から足音が聞こえる、どうやら自室にこもっていたらしい。降りてくる彼はいつもと変わらない笑みだ。私はほっとする、なにも変わらない。変わらないんだから彼は時歪の因子ではない、そう思えた。

「ファルス…気をつけろ。彼は時歪の因子だ」

ルドガーの言葉に息をのんだ。嘘だ、そう口が動いた瞬間彼を纏うオーラのようなものが見える。触れてしまえば毒されそうなそれに一歩後ずさった。
クレインさんはさして気にしていないのか普通に会話を進めていく。そう、私に見せたいという鉱石の話だ。
私はクレインさんの話に相づちを打ちながらルドガーとそっとリンクする。

「……!」

(反応しないで。聞こえていたら頭をかいて)

彼は言われたとおりに頭をポリポリと掻いた。私、思いを伝えるんだ環…結構役に立つじゃないか。あくまでもクレインさんの話に集中しているよう装う私。言葉巧みなローエンやアルヴィンの力もあってなんとか疑われる雰囲気にはなっていない。

(とりあえずクレインさんの話にあわせて私が鉱石を見に行くとしよう。私一人でもしもの事で襲われたりしたら危ないからジュードくんを助手として連れていきたいんだ。そいで戻ってきたクレインさんを挟み撃ち、これなら十中八九時歪の因子を倒すことはできるはず……どうかな?)

ルドガーにちらりと睨まれる。なんで俺じゃないんだといいたげなその顔に向けて「もしもクレインさんがエージェントと知り合いだったらぼろが出ちゃうでしょ」と返してあげた。
いまいち納得していないルドガーをよそに、私は行動にでようとする。

「……っ、」

鼻孔をくすぐる大好きなその香りにあらぬ方向へと振り向いてしまったがそこには正史世界のアルヴィンが居るだけで。微かな香りに反応する犬みたいな行動に恥ずかしさが増す。これはヤバい。
案の定きょとんとしたアルヴィンが「ファルス?」と首を傾げる始末。首を左右に振って何もないことをアピール。そして私はクレインさんに向き直った。

「クレインさん。例の物を見させていただきたいのですがその際に彼、ジュードを共につけたいのですけど」

おどろくジュードくんは私を見る。どういう意味かは分からない。クレインさんの次の言葉を予想しながら私の言うべき言葉を考える。

「どうして?」

「ジュードは今回の研究の助手として助けてもらっていますから。少しでも見習ってほしい箇所があるんですよ」

同じ白衣を着用していたこともあってさほど不振がられることはなかった。クレインさんはローエンに皆に茶を入れるよう指示して私たち二人を奥へと迎えた。
その時に聞いたローエンの「旦那さま」という言葉はどんな思いで言ったのだろうか。なんて野暮なことを考えながら私たちは進む。

何もしないよりはマシかとジュードくんとリンクした私はとりあえず気を緩めないよう手を後ろに隠して歩いていた。
正直私一人でもよかったけど、ジュードくんを連れてきたのにも一応理由はある。私がクレインさん側につかないように、皆を裏切らない証人になってもらいたいからだ。それにこの世界にジュード・マティスはいない。居るのはファルス・マティス。エージェントの有無が分からない今、一番の安全圏なのはジュードくんただ一人なのだ。

(正直嫌だけど)

なんて軽々しく思えばジュードくんが俯く。ああ、いけないいけない軽はずみなことは思わないようにしなくちゃ。
ごめんなさいね、と如何にも棒読みなその言葉の羅列を返しクレインさんの背中を眺めた。

今にも簡単に殺れそうなその背中にため息が漏れてしまう。それだけ信用されているんだとしたらうれしいことこの上ないのだけど。なんだかなあ。そういいたい気持ちが私の胸を満たした。



「さあ、この部屋の中だよ」



案内されるは何処か?
(顔が強ばるのが分かる)

2013.8/27


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